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2019-08-08 10:28

共産党の「徴用工問題」に関する不当な主張を斬る

加藤 成一 元弁護士
 日本共産党は、2018年10月30日の韓国大法院「徴用工判決」以来一貫して、日韓「徴用工問題」については、「1965年の日韓請求権協定によって徴用工個人の請求権が消滅しないことは日韓両国政府および日韓両国裁判所の一致した見解であるから、この一致点において、徴用工の名誉と尊厳を回復するための日韓両国の話し合いによる解決を図るべきである。」(2018年11月1日志位和夫委員長記者会見)と主張し、本年7月31日の日本国会議員団と韓国国会議員団の日韓議員連盟の会談でも、日韓議員連盟常任幹事の共産党穀田恵二国対委員長は、同趣旨の発言を繰り返している(8月1日付け「しんぶん赤旗」)。この日本共産党の主張が果たして国際法的にも妥当なものかどうかを検討しなければならない。
 
 この日本共産党の主張は、「一致点」に限るとはいえ、要するに、韓国「徴用工判決」に対する日本企業の「法的損害賠償責任」の有無という国際法上の極めて重要な問題を「棚上げ」して、ひたすら「被害者救済」の名のもとに、日本企業に同判決を受け入れることを強要し、もって、「徴用工」に対して日本企業に莫大な賠償金ないし和解金を支払わせようと企図するものに他ならない。日本共産党は、「徴用工判決」に対して、日韓請求権協定によって個人請求権が消滅しないことを理由として、日本企業の「法的損害賠償責任」を認め、同判決を無条件且つ全面的に支持する立場であるところ、個人請求権は消滅しないとしても、国際法上そのこと自体が日本企業の「法的損害賠償責任」に直結するものではあり得ない。なぜなら、同種事案に関する日本の最高裁判例は、日中共同声明によって個人請求権は消滅しないとしても、裁判上の請求権(訴権)が消滅したことを理由に、原告の元中国人労働者の請求を棄却しているからである(2007年4月27日最高裁第二小法廷判決、民集61・3・1188。7月22、23日付けグローバル・フォーラム論壇「議論百出」掲載の拙稿「国際法からみた韓国徴用工判決の問題点」連載1、連載2、参照)。このように、日本共産党が、「韓国徴用工判決」に対して、日本企業の「法的損害賠償責任」を含め、同判決を全面的に支持・容認するからといって、上記最高裁判例によれば、もともと日本企業には「法的損害賠償責任」が全く存在しないにもかかわらず、その日本企業に対して、共産党が「和解」とはいえ莫大な金額の支払いを事実上強要することは、明らかに党としての越権行為であり権限の濫用であると言わざるを得ない。
 
 共産党は、上記最高裁判例でも「和解」が成立し(西松建設事件)、他の裁判でも「和解」が成立した事例(花岡事件など)があると主張するが、「和解」が成立したのはいずれも「中国人強制連行事件」であり、「韓国人徴用工事件」ではない。前者は日中共同声明により戦争賠償請求が放棄されたが、後者は日韓請求権協定により無償3憶ドルを含む合計8憶ドル(当時の韓国国家予算の二倍超)もの莫大な供与を日本から受けており、国際法上も両者を同列に扱うことは到底許されないのである。もしも、日本共産党の主張通りに、日本企業が「韓国徴用工」に対して、上記最高裁判例によれば「法的損害賠償責任」が全く存在しないにもかかわらず、「和解解決」をした場合の影響は計り知れない。なぜなら、韓国政府認定の「徴用工」は22万人にも達しており、上記「徴用工判決」の一人当たりの賠償額は1000万円であるから、総額22兆円という天文学的金額になる。のみならず、このことは、中国や北朝鮮などの諸国にも波及し、日本の国益を甚だしく害する重大な事態になりかねない。
 
 7月29日に外務省が公表した日韓請求権協定に関する「交渉記録」によれば、当時の韓国側の代表は「徴用工」の被害に対する補償について、「強制的に動員し、精神的肉体的苦痛を与えたことに対し相当の補償を要求することは当然だ」と述べたうえで、「韓国が国として請求し、支払いは国内措置とする」となっている。この事実からも請求権協定の中に「徴用工」の慰謝料が含まれていることが明白であり、「韓国徴用工判決」を含め、韓国側の主張は明らかに矛盾している(7月30日配信TBS NEWS)。結局、「韓国徴用工」に対する補償は、その金額を含めて日本から莫大な供与を受けた韓国政府の全責任においてなされるべきは国際法上も明白である。現に2018年12月20日「韓国徴用工」1386人は、韓国政府に対して、ソウル中央地裁に一人当たり1000万円の支払いを求める損害賠償請求訴訟を提起したが、その理由は、「韓国政府は日本政府から補償金を受け取りながら、徴用工に渡さなかった」(週刊ポスト2019年3月15日号)という事実に即したものである。よって、日本共産党が主張する「一致点」による「和解解決」なるものは、上記最高裁判例によれば、もともと「法的損害賠償責任」が全く存在しない日本企業に対して、国際法を無視して事実上莫大な負担を強いるものであり、日本国の国益を甚だしく害し、国際法上も許されず、到底妥当なものと言えないことは余りにも明白である。
 
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