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2019-02-04 12:12

ゴーン事件巡る仏大統領の正解と誤解

中村 仁 元全国紙記者
 マクロン仏大統領が安倍首相との電話会談で、日産会長にスナール氏を起用するほか、ルノーと日産の経営統合の意向を示唆しました。企業レベルの話に大統領が首を突っこんできたことは、問題を政治・外交化させる愚策です。長期化するデモに手を焼き、国内向けのポーズを取りたかったのでしょうか。仏政府がルノーの筆頭株主(20%)とは言え、まさか大統領が乗り出し、日産とは関係のない日本政府のトップに意向を伝えてくるとは大げさでした。一企業の人事、経営問題ですから、担当閣僚やルノーの次元で日産側と協議すべき案件です。フランスには国営の大企業が少なくなく、政府が乗り出してくることは多いにせよ、仏大統領としてやるべき仕事を誤解しているように思います。
 
 市場に対する政府の役割は、金融・財政などのマクロ経済政策、産業政策などが中心であるべきです。巨大企業の経営破綻など、経済全体に影響が及ぶときには政府の出番はあるにしても、日産の問題で安倍首相と協議に及ぶとは、外交と企業問題の境界線が見えていません。安倍首相が「当事者間でよく話しあってほしい」と応じたのは、当然です。日本政府が大株主の企業ならまだしも、政府とは関係のない日産の問題ですから、首相も困ったでしょう。「ゴーン被告の拘留の長期化」に対する批判についても、大統領が個別に関ってくる話ではありません。
 
 一方、マクロン大統領やルメール経済相がゴーン退陣(辞任)を決断したことは正解でした。「税法上の居住地を税率の低いオランダに移していた」のは、「国が筆頭株主の大企業のトップがやるべき行為ではない」との政府の判断はもっともです。ゴーン被告の辞任に対する手当、報酬は「5億円」、「30億円」とか、仏メディアは伝えています。ルメール経済相が「法外な額になると、誰しも理解できない。今後の手続きを注意深く監視する」と述べたことは正解です。疑念の多い被告の振る舞いを仏政府は無視できませんでした。燃料税の引き上げがきっかけの、長期化する抗議デモ(「黄色いベスト運動」)も意識したのでしょう。この支払いは仏ルノーに関することであり、日本の日産については、退職功労金などがでることはないでしょう。報酬の虚偽記載、特別背任が違法、有罪になるかならないか以前の経営モラル、企業倫理の問題の数々で、会長失格です。先払いを目論んでいた90億円も消えたも同然です。
 
 スナール氏を日産が迎えて、直ちに取り組むべきことは世界市場を戦い抜く経営戦略、独裁的経営者を生まない企業統治システムの改革です。ゴーン被告が側近を重用し、その側近も簡単に排除するので、日産側もやる気が衰え、昨年は新車発売がなく、生産設備は老朽化し、リストラのやりすぎで検査員も不足し、不正を生みました。取締役会もゴーン派で過半数を占めました。自動運転(AI)時代に入る自動車産業にとって、業界の枠組みを超えた提携が必要です。新時代の情報通信技術を備えた企業との組み合わせが不可欠です。ルノーと日産の経営統合でいがみ合っている時ではありません。政府は経営に介入せず、ルノーと日産が互いの自主性を尊重しなければ、展望は開けません。
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