国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2019-01-14 15:05

(連載1)‘事実’を否認する韓国の問題

倉西 雅子 政治学者
 韓国海軍艦艇「広開土大王」による自衛隊哨戒機に対するレーダー照射事件は、双方が相手の主張を否定する展開となり、解決の糸口の見えない‘泥沼化’の様相を呈しています。それもそのはず、日韓の対立には、他の国際紛争とは異なる特徴があるからです。戦争をはじめ、歴史上に起きた国家間の争い事については、当事国双方が異なる‘解釈’を付すことは稀ではありません。歴史的な出来事に対して複数の‘解釈’や‘見方’が提起されることは、むしろ人間の自由な知性からすれば当然であり、絶対的なドグマとして固定化するよりも望ましいことでさえあります。そして、この種の主観的な‘解釈’をめぐる争いは、‘事実’を客観的な‘事実’として双方が認めていれば、決定的な決裂を回避することができます。‘解釈’をめぐる問題は相互理解で解決可能であり、‘事件Xは、A国から見れば○○でも、B国から見れば××である’という共通認識に、一先ずは落ち着き得るのです。

 ‘解釈’をめぐる争いは、双方が自らの立場を述べ合い、かつ、双方が相手方の立場を理解することで、相互承認的な着地点を見出すことができるのですが、‘事実’をめぐる争いは、前者のプロセスを以って解決に至ることは殆ど不可能です。何故ならば、‘事実’は一つであって、複数存在することは天地がひっくり返ってもあり得ないからです。‘事実’については、足して二で割る方式の妥協の余地は皆無なのです。

 日韓間の争いを見てみますと、‘事実をめぐる争い’は、今般のレーダー照射事件は氷山の一角に過ぎず、所謂‘慰安婦問題’や‘徴用工問題’に留まらず、朝鮮半島の日本統治時代全般にまで及びます。さらに歴史を遡れば、古代における倭国と百済、新羅、加羅等の関係や豊臣秀吉の朝鮮出兵、並びに、江戸時代の朝鮮通信使の実像についても、両国の間で‘事実’が違っています。日韓間に横たわる諸問題の多くは、解決困難な‘事実’をめぐる争いなのです。

 ‘事実’をめぐる争いの典型的な事例は、‘事実’に基づいて有罪無罪を判断する刑事事件です。刑事事件では、一方が利己的他害性によって他者を侵害した加害者側となり、もう一方は、侵害を受けた被害者の立場となります。言い換えますと、どちらか一方が‘犯罪者’と認定され、被害を受けた相手方に対して絶対的な劣位に置かれるのです(謝罪や賠償責任をも負うことに…)。そして、この有罪無罪の判断を支えるのが事実認定であり、‘事実’を立証し得る客観的な証拠こそ同判断の決め手となります。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム