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2018-12-05 15:09

(連載1)入国管理法改正案の隠れたリスク

倉西 雅子  政治学者
 今般、国会に提出された入国管理法改正案は、成立すれば日本国全体に長期的、かつ、広範に亘る負の影響を及ぼすことが予測されます。同法の施行に伴う重大なリスクに関しては、十分な国民的な議論もないまま、日本国政府は、あくまでも年内成立を目指すようです。あたかも、時間的余裕を与えない奇襲作戦のように…。



 同法改正案の提出に際して、政府は、農業、介護、造船、観光、建設の5分野における深刻な人手不足を強調していましたが、その後、‘希望’が寄せられたとして、受け入れ分野を素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業といった先端産業分野を含む14にまで拡大させています。中小企業の人手不足も根拠とされていますが、これらの企業は日本企業に限定されているわけではありません。



 先進国において移民数が増える最大の要因は、企業による外国人雇用です。EUからの離脱を決意したイギリスのケースでは、失業率が比較的高く、深刻な人手不足に苦しんでいたわけでもないにもかかわらず、企業は、労働コストの削減を目的に外国人労働者を積極的に雇用してきました。そして、こうした企業は、英国企業に限られてはいません。産業革命発祥の地でありながら、金融偏重の政策、並びに、グローバル化の煽りを受けて英国製造業は衰退の一途を辿り、同国の産業の主要プレーヤーは今や外国企業なのです。英国に製造拠点を設ける日本企業も少なくなく、その一つ、日産自動車の経営戦略を観察しますと、同法案成立後の日本国の未来の姿も朧気ながら浮かんできます。



 日産は、仏ルノーグループの一員であり、同社のリストラに辣腕を振るったカルロス・ゴーン氏がトップを務めた、押しも押されぬグローバル企業です(ゴーン氏自身、レバノン系ブラジル人を父に、ナイジェリア生まれのレバノン人を母としてブラジルに生まれ、フランスで教育を受けたまさにグローバリスト…)。1986年、同社は、欧州市場全域への輸出拠点として、イングランド北部の港湾都市サンダーランドに製造拠点を設けています。当時、サンダーランドは伝統産業であった造船業と鉱業の衰退に苦しみ、雇用状況も悪化していました。日産による自動車製造工場建設は、同市が世界各国の企業の製造拠点が集積する産業都市として息を吹き返す契機ともなり、初期の段階では、日英双方のウィン・ウィン関係が成り立っていたのです。しかしながら、グルーバル化のさらなる進展と1993年における欧州市場の誕生もあり、同工場を始め、サンダーランドに進出した各国企業が雇う従業員は、必ずしもイギリス人のみではなくなっていったようです。パキスタンなどEU加盟国以外の外国出身者も多く、外国企業による外国人雇用という構図が見られるようになるのです。今日では、サンダーランドは全国的に見ても移民の比率が高い地域となり、それ故に、2016年6月に実施されたEU離脱を問う国民投票でも賛成率も高かったのです。そして、イギリスのEU離脱が決定されると、ゴーン氏は、同市からの工場撤退を示唆しつつ、イギリス政府に対して賠償を請求する声明を発表します。日産のみならず、既に英国内に製造拠点を構える他の外国企業も、グローバルレベルでの経営戦略の見直しを迫られることとなるのです。(つづく)
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