国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2018-10-19 14:59

英国の末路

岡本 裕明  海外事業経営者
 英国のEU離脱にむけた状況を見ると目を覆いたくなります。メイ首相の心中やいかに、と慮りたくなりますが、本人の強気発言は英国人のプライドの高さを示しているのか、単に頑固で前にしか進めないウサギのようなリーダーなのでしょうか?ご承知の通り、19年3月で英国はEUから離脱します。その移行期間をスムーズにし、双方がどのような作業、協定締結を行うのかを含めた交渉期間は約2年ありました。そのタイムリミットは10月とされており、すでに実質タイムアップといってよい状況にあります。にもかかわらず、ほとんど何も合意できておらず、終わりの始まりが近づいているようです。報道では11月と12月に開催されるEU首脳会議が本当の最終期限とされますが、12月はクリスマス時期に入るため、機能しないでしょう。よって11月中旬に設定されている首脳会談が全てになると思います。

 現在の状況は最悪と言ってよく、合意なき離脱が現実味を帯びています。もしも政府に代替案があるならそれを示さないと国全体で噂が噂を呼び、大混乱に陥る可能性はあります。ではなぜ「こんな状況になってしまったのか」ですが、個人的には「EU離脱を問う国民投票そのものが間違いだったのではないか」と考えています。近年の選挙は選挙民をいかに引き付け、魅力的なオファーをし、投票してもらうか、あらゆるテクニックを駆使します。その結果、案件に対して360度見渡し、長所短所を理解したうえで判断しているのかといえば、多分それは少数派ではないかと思います。国民の大半は自分で直接的に目で見える生活エリアのことしかわかりません。政治家や専門家が何をどれだけ主張し、説明しても上の空であり、頭に入ってくることはありません。それよりも自分に降りかかってくるかもしれない目先の損得に目を奪われ、それをより刺激するメディアや主張にだけ耳を傾け、明白な結論だけを先に作ってしまいます。そうなると相手の言い分など聞く耳持たずになるのです(典型的な今の選挙戦スタイルです)。EUからの離脱判断は国家の経済、社会システムの大根幹の決定であるのに国民投票が正しい判断手法だったとは思えません。それは恐るべき素人集団が群集心理と声の大きさに惑わされ、洗脳され、扇動されてしまうからであります。そうではなく、市民と状況をコミュニケートできる専門家を全国各地から1000人なり1万人なり選出する選挙(Special Purpose Electionとでも言いましょうか?私の造語です)を行い、十分なる知識を持った人たちが討論をもって与えられた特定案件のみを決議できる被選挙人を設定すべきだったのかもしれません。もちろん、今言っても遅いですが。

 英国に基盤を持つ企業、特に国際企業はここにきて大慌てで代案の具体化を進めています。このところ、トヨタやBMWといった自動車業界からいろいろな声が聞こえてきたのは10月2日にパリ国際自動車ショーで自動車メーカーの首脳らがたまたま集まったためにそんなニュースが数多く流れました。日経によればドーバートンネルを行き来するトラックは1日5000台。この動きがなんらかの形で遅滞すればそれだけでとてつもない経済停滞を引き起こすとされます。先の自動車業界の場合、部品のストックはトヨタで4時間、ホンダで半日分しか持たない究極のジャストインタイム方式ですから、これがあだになる可能性が出ているわけです。

 では国境に入国審査場ができ、カスタム(税関)ができるとすればその施設はどう作るのでしょうか、人はどう採用し、どういうルールを設定するのでしょうか?こういう実務一つとっても何も決まっていないとすれば英国は3月29日午後11時に無法地帯と変わるのかもしれません。もちろん、メイ政権が無策であるとは思っていません。発表こそしていなくとも、いざという準備はしているでしょう。しかし、日本のように何かあった時、一気呵成に達成できるような国家の基礎はありません。EU離脱に伴う実務作業だけで気が遠くなるようなプロセスが待ち構えています。合意なき離脱が生じれば数年間は混沌とした国家になる可能性は否定できませんが、もともと持ち合わせている能力、資産、政治力はあります。どこかで回復してくるとは思いますが、茨の道が待ち受ける公算は相当高まってきたと言わざるを得ない気がします。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム