国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2018-10-10 13:14

(連載2)中国の新アフリカ戦略の3つのポイント

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 これに関連して重要なのが、習氏の基調演説の2つ目のポイント「貿易関係の深化」だ。基調演説のなかで習氏は「アフリカからの輸入」に関して3回触れた。あまり多くないようにみえるかもしれないが、前回までのそれぞれの基調演説では毎回のように「貿易の促進」が述べられていたものの、「中国がアフリカからの輸入を増やす」という主旨の発言はこれまで一度もなかった。これに比べると、今回の方針は大きな変化である。中国にとって貿易の活発化は他国との関係を築く基盤で、いまやアフリカにとっても最大の貿易相手だが、多くの国では中国側の出超になりがちである。国際通貨基金(IMF)の統計によると、例えば2017年段階で、アフリカ全体から中国向けの輸出額が約486億ドルだったのに対して、アフリカ全体での中国からの輸入額は約680億ドルにのぼる。中国の大幅な輸出超過に対して、アフリカでは2000年代から既に不満が表面化し始めていた。これを受けて、中国は2006年から段階的にアフリカの商品の関税を免除し、既に97パーセント以上の輸入品目を無関税輸入の対象にしてきたが、中国の輸出攻勢がすさまじいことに加えて、天然資源を除けばアフリカの主要商品(コーヒー豆、カカオ豆など)に対する中国側の需要が大きくないこともあり、状況は大きく改善してこなかった。今回、習氏があえて「アフリカからの輸入」を強調したことは、アフリカ側の不満を和らげ、ひいてはアフリカ各国に中国主導の経済圏に目を向けやすくするものといえる。これに加えて、トランプ政権が各国に貿易戦争をしかけ、保護主義が蔓延するタイミングで「アフリカからの輸入の増加」を強調することは、もともと貿易依存度の高いアフリカを中国に向かいやすくする。

 最後に、安全保障協力である。今回の基調演説で習氏は「安全保障」に関して13カ所で触れた。これは第6回FOCACまでと比べて目立って多く、習氏は演説のなかで「平和・安全保障基金」の設立も表明している。南シナ海などで海洋進出の印象が強いものの、中国にとって海外での軍事展開にはリスクも高い。中国はアフリカ進出のなかで「内政不干渉」を強調して他国の紛争や内政に関わることを避け続け、2011年に発生したリビア内戦でも欧米諸国の軍事行動を「帝国主義」と批判することで、自らを差別化してきたからである(この点は第7回FOCACでも強調されている)。とはいえ、進出が本格化するにつれ、中国企業が紛争やテロに巻き込まれる事態も増えているため、アフリカの平和と安全は中国にとっても重要な課題となりつつある。

 その結果、中国は国連PKOへの参加を増やしてきただけでなく、リビア内戦で中国人労働者を救出するために艦艇を派遣したのを皮切りに、2013年に発生した南スーダン内戦では停戦を呼びかけ、2015年にはジブチに中国海軍が基地を構えるなど、安全保障上のプレゼンスも段階的に高めてきた。第7回FOCACに先立ち、6月に中国国防部はアフリカの50カ国から軍高官を招き、中国・アフリカ防衛・安全保障フォーラムを初めて開催した。これは「一帯一路」の加速とともに今後ますますアフリカの紛争が中国に及ぼす影響を念頭に、中国とアフリカの軍事協力を深める一歩であり、第7回FOCACで習氏はその方針を内外に公式に示したのである。

 こうしてみたとき、今回のFOCACで習近平体制は、中国主導の経済圏にアフリカを引き込む意志を、これまでになく明確に打ち出したといえる。その行方は、「一帯一路」の成否にも関わり、ひいては中国のグローバルな影響力にもかかわる。中国のアフリカ進出は、新たなステージに入りつつあるといえるだろう。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム