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2018-10-09 14:53

(連載1)中国の新アフリカ戦略の3つのポイント

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 中国のアフリカ政策のプラットフォームである中国・アフリカ協力フォーラム(FOCAC)で、習近平国家主席は中国主導の経済圏にアフリカを引き込む意志を、これまでになく鮮明に打ち出した。中国のアフリカ進出は、新たなステージに入る。9月3日、北京で2日間の予定でFOCACが開催された。2000年から定期的に開催されてきたFOCACは、今回で第7回目となる。今回、習近平国家主席は3日の開会式の基調演説で、3年間で600億ドルの資金協力を約束した。これは2015年の第6回会合で提示された金額と同じ額である。この背景には、貿易戦争の影響などによって中国経済に負荷がかかっていることもあるだろうが、日本との関係も無視できない。

 日本はアフリカをめぐり2000年代から中国と「援助競争」を繰り広げてきたが、援助額がエスカレートする負担から、2010年代半ばにアフリカ向け援助額の増加にブレーキをかけ、さらに昨年には日中共同プロジェクトの実施に合意した。つまり、それまでほど日本と援助競争をしなければならない状況でもなくなったことが、増え続けていた中国の援助額の高止まりにつながったとみられる。ただし、とかく資金協力の金額が注目されやすいものの、それに劣らず重要なのは中国のアフリカ戦略の内容である。FOCACは中国のアフリカ進出のプラットフォームで、ここで中国の歴代国家主席は援助や協力の内容を示し、アフリカ政策の方針を明らかにしてきた。今回の習氏の基調演説を過去6回の会合に出席した中国側の責任者の基調演説と比べてみると、中国主導の経済圏にアフリカを引き込む意志が、これまでより鮮明になったといえる。それは主に、1.「一帯一路」構想と結びつけたアフリカ支援、2.貿易関係の深化、3.安全保障協力の本格化の3つのポイントが読み取れ、これらについて以下でみていこう。

 ユーラシア大陸をカバーする経済圏「一帯一路」構想は2014年に発表されたが、2015年に開催された第6回FOCACの基調演説で習氏は一度もこれに触れなかった。今回、3日の基調演説で習氏は4回にわたって「一帯一路」に言及し、「一帯一路とアフリカ開発の連動」、「アジア・インフラ投資銀行や(「一帯一路」を促進するための)シルクロード基金などのリソースを活用したアフリカ支援」などを強調した。今回「一帯一路」が強調されたことは、既成事実が追認されたに過ぎないともいえる。

 2000年代から中国はアフリカでも大規模なインフラ建設を進めており、鉄道だけに限っても、これまでに2017年1月にはエチオピアとジブチを結ぶ総延長752キロメートルのアディスアベバ‐ジブチ鉄道を開通させた他、ケニア、アンゴラ、ナイジェリアなどでもプロジェクトを完成させている。これらは基本的に「一帯一路」と無関係に進められたが、もともと「一帯一路」構想にはユーラシア大陸だけでなくアフリカ東岸も含まれていた。そのため、2017年5月に中国で開催された「一帯一路」国際会議には、エチオピアやケニアからも大統領が出席している。つまり、習氏がFOCACの場で「一帯一路」を強調したことは、既に自明だったアフリカ進出と「一帯一路」の結合を追認したに過ぎないが、東岸だけでなくアフリカ全域を中国主導の経済圏に引き込む戦略を公式に認めるものでもある。最高責任者のゴーサインが出たことは、中国の国営企業などがこれまで以上にアフリカ進出を加速させるとみられる。(つづく)
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