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2007-05-03 01:49

「留学生100万人計画」に思う

小笠原高雪  大学教員
 新聞各紙の報道によれば、政府の教育再生会議の第三分科会は、わが国の大学(学部、大学院)に学ぶ留学生数を2025年に100万人に増やすことを目標とする方針を決めたという。中曽根内閣時代の1983年に策定された10万人計画は、当時の留学生数を10倍にするものであり、20年間で達成された。上記方針はそれを次の20年間にさらに10倍にするというものであり、もしそれが実施されれば大学生の4人に1人は外国人という状況となる。そのような状況はわが国の大学にきわめて大きな影響を与えることになるであろうし、またその影響は経済・社会をふくむ広い範囲に及ぶであろう。したがって、この問題の議論は多角的になされなければならないが、以下では二点に絞って問題提起をしておきたい。

 第一に、100万人という数字にどこまでこだわるかは別にして、かりに留学生数を大幅に増やす場合、その国別の内訳はどのようなものになるのであろうか。現状をごく大まかにいえば、わが国の大学に学ぶ留学生の3分の2は中国からの留学生である。中国という国の近さと大きさを考えるならば、中国からの留学生が相対的に大きな割合を占めることは意外ではない。しかしながら、中国であれ他の国であれ、特定の国からの留学生が全体の過半を占めるという状態は、国際交流のあり方としては必ずしも健全ではない。むしろ留学生の受入れを日本人学生の視野を広げる契機とし、また留学生にとっての日本留学の魅力を高めるためには、留学生の出身国の多様化が求められているといってよい。多様化の対象としてはさまざまな国々を考えられるが、さしあたり手近な表現を借用すれば、わが国が「自由と繁栄の弧」を形成しようとしている地域は有力な候補なのではなかろうか。

 第二に、大学教育において使用される言語については、どのように考えたらよいのであろうか。当然のことながら、わが国の大学教育の多くは日本語で行なわれており、留学生には日本語の修得が求められているのが普通である。このことは今後も基本的には変らないとしても、留学生数を大幅に増やすとともに出身国の多様化を図るのであれば、大学教育において英語の使用される部分を増やすことも必要になるであろう。そのことはまた、日本人学生に実践的な英語を学ぶ動機と機会を与えることにもつながるであろう。しかしそれは短期間に達成できるようなことでは決してないし、留学生に日本語を修得させることを不必要にするものでもない。そのような観点から考えるならば、わが国の留学生政策を検討するに際しては、米国や英国といった英語圏諸国の政策のみならず、ドイツやフランスといった非英語圏諸国の政策もまた参考とすべきであろう。
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