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2018-09-04 10:40

(連載1)憲法改正における防衛関連条項

佐藤 有一  軍事評論家
 憲法は国民の権利や国家の統治に関する基本的なルール・規定です。憲法は国民の生きる権利を保障し、国家の権力を制限しています。国にとって憲法は最高法規であり、これに違反する法律・政令・条例を作ることはできません。日本国憲法は1947年に施行されました。施行されてから70年以上が経過していますが、今まで一度も改正されませんでした。日本は民主主義国ですから、これは結果として国民が憲法改正をしないという選択をしてきたということでもあります。憲法が施行された時期は、太平洋戦争の敗戦直後でGHQにより占領統治されている状況でした。それ以降、日本の独立、自衛隊の発足、日本の国連加盟、日米安保条約の締結など様々な出来事がありました。国民の間にも憲法に関しての様々な議論がありましたが、この憲法は日本の社会にそれなりに定着しているのは確かです。憲法の原案は、GHQ最高司令官マッカーサーの指示によりGHQ内部で英語で作成されました。日本政府はこれを日本語に翻訳して、いくつかの修正を加えたうえで国会で議決をして公布しました。このような経緯で作成・公布・施行されたために、この憲法に対して成立過程の問題点を指摘する意見があります。すなわち「日本人によって作られた憲法ではない」「文章が翻訳調で日本語の文法としておかしな箇所がある」「表現が観念的であやふやな表現があり、異なる解釈をもたらす原因となっている」などです。「日本人が自主的に作った憲法ではない」のは確かですが、憲法の内容が国民に受け入れられているのであれば、それにこだわる必要は無いと思います。日本語の文章としての問題点に対しては、憲法改正の政治的な議論とは切り離して、正しい日本語の文章に修正していくべきです。とはいえ、その文章の修正を憲法改正によって実現することはきわめて困難でしょうから、次善の策として、政府は日本語の表現として正しいとする憲法の全文章をその解釈を含めて公表しておくことを提案します。

 太平洋戦争の敗戦直後の混乱期に、たとえGHQにより短期間に作成されたとしても、この憲法には評価すべき条項もあります。その第1は「天皇制の維持」です。天皇は国の象徴であると憲法1条に記述されています。憲法が作成された当時の状況としては、日本を統治していた組織の中には天皇制を廃止する動きもあったようで、これに対して天皇制が維持されたことはマッカーサーの判断によるところが大きかったのです。今日の日本の社会が安定しているのは、天皇制が維持されているためと言っても過言ではありません。仮に天皇制が廃止されてしまったとすれば、今日の日本の姿を想像するのは多くの日本人にとって難しいと思います。

 第2に評価すべきは憲法の基本3原則を明示したことです。憲法の基本3原則とは「国民主権」「基本的人権」「平和主義」です。この基本3原則に関連する憲法の条項は、憲法改正によって変更することは許されないとする護憲主義もあるようですが、「平和主義」にそれを当てはめることは間違っていると思います。なぜならば「平和主義」は日本の安全保障そのものだからです。「平和主義」を守っていくためには、日本の周辺に存在する軍事的脅威に適切に対応していくことが必要になります。そのためには「平和主義」に関連した憲法の条項の改正もありうることを、政府は国民に事前に説明しておくべきです。

 第3に評価するのは憲法9条で示されている「戦争の放棄」「他国を侵略するための戦力の放棄」です。いわゆる平和憲法の根拠となる条項ですが、最近の安保法制の成立過程での国会審議における混乱の基となった条項でもあります。憲法9条のおかげで、国際連合によって編成され米国が主導した朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争に日本が参加しなくてすんだのです。当時の日本政府は、日本には戦争を放棄した憲法9条があるから参加できないとしました。もしこれらの戦争に参加していれば、その当時の日本の国力、国内政治の不安定な状況、国際的な平和行動に対する準備の無さなどから考えて、対外的にも国内的にも大混乱をきたしていたと思われます。今日の日本には様々な問題があるにしても、それなりの安定した政治、経済、社会が存在していますが、これらの戦争に参加していたとすれば、それとは異なる混乱した日本になっていたかもしれないのです。(つづく)
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