国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2018-08-27 11:46

(連載1)「人材開国」は明治の開国とは全く違う

倉西 雅子  政治学者
 安倍政権は、外国人労働者の受け入れ拡大に向けて準備を加速するよう指示したと報じられております。「人材開国」という野心的な表現も見受けられるようになりましたが、この開国、明治時代の成功体験を意識しているとすれば、それは、現代という時代を読み違えているのではないかと思うのです。

 今般の「人材開国」は、外国人単純労働者にも門戸を広げるという意味において、過去に類例を見ません。明治時代の開国とは、通商条約の締結とそれに伴う外国との貿易の開始を意味しましたが、今般の「人材開国」は、‘モノ’でも‘資本’でもなく、‘人’が日本国内に大量に流入します。開く分野が違うのですから、江戸末から明治にかけての開国とは似て非なるものなのです。性質の違うものを恰も同じように扱うのは一種の‘印象操作’なのですが、‘人’とは、社会的、並びに、政治的な存在であり、かつ、人格を伴いますので、「人材開国」に伴う政治・社会的変化は明治の開国よりも深刻です。

 明治期とは、日本国民が、西欧諸国の先進的な学問や技術のみならず、その風習や文物までも取り入れ、熱心に学ぼうとした時代です。鹿鳴館時代には諸外国からその物真似ぶりが揶揄されましたが、いわば、キャッチアップが至上命題であったこの時代、近代国家の一員となるために日本人自身が積極的に自らを変え、当時の‘国際スタンダード’に合わせようとしたのです。しかも、当時の通商条約では、主として経済活動を目的とした両国間の人の行き来は許しても、移民については自由な入国を許していません。当初は開港地に外国人居住区を設け、国内における外国人の自由移動さえ許さない程であったのですから(その後、外国人の移動制限は段階的に解除…)、近代化のプロセスにおいて国民の枠組が大きく崩れることはなかったのです(韓国併合時にあっても外地からの人の移動には制限はあった…)。大小の凡そ100藩から成るゆるい連合体の幕藩体制であった江戸時代と比較すれば、日本国民という国家への帰属意識、即ち、アイデンティティーと団結力は、むしろ強まったのではないでしょうか。

 ところが、今般の「人材開国」とは、明治期の開国とは、全く異なる作用を国民に及ぼします。それは、国内に大量流入するのが‘人’であるからに他ならないのですが、国籍のみならず、言語、慣習、宗教、社会常識等が異なる様々な国々から‘人’が押し寄せてくるとしますと、日本国の政治や社会的枠組が崩壊するリスクは格段と高まります。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム