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2018-08-06 11:33

日米FTA交渉

緒方 林太郎  元衆議院議員
 8月9日、日米経済新協議が行われます。場合によっては10日までずれ込むこともあるとの事です。普通に通商ルールに則るのであれば、「日米FTA」以外の解は無いと思います。というのも、今の世界の通商ルールは「最恵国待遇(すべての人に同じ待遇)」が原則で、その例外として、一定の厳格な要件の下に認められているのが自由貿易協定(FTA)です。今、アメリカが求めているのは、他の国に与えている待遇とは異なる有利な待遇ですから、これを実現出来るとすれば通商ルールの世界では自由貿易協定しかありません。(厳密に言えば、若干の例外はありますし、通商ルールとは切り離された国内措置で米国製品を優遇する事は不可能ではありませんが、その程度で収まるとも思えません。)

 その一方で、今回の閣僚級協議で安倍総理にとって最大の課題は「日米FTA交渉開始」の文字が報道で踊らない事、これに尽きるでしょう。総裁選を前に、その言葉がマスコミの報道で踊ると、自身の総裁選に大打撃です。農業地域選出議員や農業関係者の党員票が確実に減ると判断しているはずです。そして、今回の閣僚級会合をやり過ごせば、次にやってくるのは総裁選後の国連総会での首脳会談です。そこまでは何とか「日米FTA交渉開始」のフレーズは使わないようにしたいでしょう。

 一方、アメリカ側からすれば、トランプ政権は中間選挙で国内にアピールできるネタを一日でも早く求めています。以前から私は「肉が焦点になる」と見ておりましたが、早速、ライトハイザー米通商代表は「牛肉」の「不公正な貿易障壁」に言及していました。これが何を指しているのかは分かりません。単に既発効の日豪FTAで米国ビーフが劣位に置かれている事を指すのか、それとも、WTOの一般ルールよりも発動要件が緩い「(牛肉の)特別セーフガード」の話を言っているのか、それ以外の何かを言っているのか、よく分かりません。直感的には「アメリカの牛肉が売れない」イコール「不公正な貿易障壁」という回路ではないかと思います(いずれにせよ、ヒドい理屈ですが)。それ以外にも、大産地に連邦議会選挙での「スウィング・ステート(激戦区)」がかなり含まれる豚肉についても、米国は強く言ってくるはずです。こちらも未発効ながら、TPP11(カナダ、メキシコ)、日EU(スペイン、デンマーク)が発効すれば、アメリカ産はかなりの劣位に置かれます。米国の豚肉生産者は焦っているはずです。

 9日の閣僚級協議は、国連総会まですべてを遅らせたい安倍総理と、すぐにでも選挙向けのネタが欲しいトランプ政権とのせめぎあいと見ておけば間違いないでしょう。その構図の中で「日米FTA交渉開始」がどのタイミングで、どう絡んでくるかが見えてきます。ただ、繰り返しになりますが、アメリカの要求に日本が幾許かでも応じようとすれば、アメリカがTPPに復帰する可能性がほぼ無いと判断する限り、日米FTAしか方法はありません。表に出て来ない取引だってあるかもしれません。あるとすれば、「国連総会時の首脳会談では『肉(の輸入)』でタマ出すから、8月の閣僚級で『日米FTA交渉開始』だけは言わないでくれ。」みたいな感じでしょう。それをトランプ政権が「選挙との関係で時すでに遅し」と思えば受けないでしょうし、「時期的にOK」と見れば、そういう「ディール」は成り立つかもしれません。上記のような視点で、今後の日米経済新協議を見ておくと、それなりに「裏」が透けてくるように思います。
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