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2018-06-11 10:35

(連載1)「歴史のリセット」を夢想するドイツ新右翼

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 ドイツ内務省は5月22日、「帝国の市民(Reichsburger)」と呼ばれる極右勢力のメンバー450人が保有していた武器を取り上げたことを発表。2016年10月、同国南部のゲオルゲンスグミュントで「帝国の市民」メンバーが警官を射殺して以来、ドイツ政府はこの組織への警戒を強めています。一般的に、ヨーロッパの極右勢力は反EU、反移民を主張し、「国家としての独立」を強調します。ところが、「帝国の市民」は第二次世界大戦以前の国境線を有効と主張し、現在のドイツ連邦共和国の正当性を認めず、「国家からの独立」を目指す点で、他の極右と異なります。現状の国家のあり方そのものを拒絶する動きはアメリカなどでもみられるもので、極右の新たな潮流として注目されます。

 ドイツには2017年連邦議会選挙で94議席を獲得し、第三党に躍進した「ドイツのための選択肢(AfG)」をはじめ、いくつかの極右勢力があります。このうち「帝国の市民」は代表者や本部のある組織ではなく、ソーシャルメディアなどで結びついた緩やかなネットワークとみられています。「帝国の市民」は1980年代半ばに生まれましたが、この数年で急速にメンバーを増やしているとみられます。ドイツ内務省の下部組織である連邦憲法擁護庁(BfV)は2017年度の報告のなかで、「帝国の市民」のメンバーを約1万8000人と推計。2016年段階では1万人とみられていたため、1年間で80パーセントの増加にあたります。「帝国の市民」には、他の極右勢力と同じく、反イスラーム、反ユダヤ主義、反移民の主張が鮮明ですが、その一方で現在のドイツ連邦共和国の体制そのものを認めない点に、最大の特徴があります。

 「帝国の市民」は第二次世界大戦末期の連合国との終戦協定を認めていません。ここから、大戦勃発直前の1937年段階での国境が現在も有効で、戦後に生まれたドイツ連邦共和国は「敵国」に占領されたもので正当性がない、という主張が導かれます。言い換えると、ヒトラーが率いたドイツ第三帝国(1933~1945)がまだある、というのです。「帝国の市民」の一部は、連邦議会選挙で躍進したAfGとも結びついているといわれます。しかし、選挙を通じて既存の体制のなかで権力を目指すAfGと、そもそも今の国家を認めていない「帝国の市民」の間には、大きな溝があります。

 ドイツの極右分析センターのバーバラ・マンザ博士は「帝国の市民」を指して、「自分たちの世界で生きている」と表現しています。それは「敵国による支配」という陰謀説に傾き、現実にある国家や歴史を否定するだけでなく、「帝国の市民」たちがいわば「仮想の国」を現実にしようとしているからです。現在のドイツの憲法も体制も否定する「帝国の市民」のメンバーは、公的機関に従うことを拒絶しています。そのため、パスポートや運転免許証をはじめとする公式の身分証明を破棄し、税金も納めないことが一般的です。それに代わり、彼らは自分たちのパスポートや通貨まで作っているとみられます。「こちらの世界」からみれば、彼らは身分を偽り、納税義務を怠っていることになります。一方、「帝国の市民」にとって実際の警察、役所、裁判所などは、「正当性のない命令を下してくる理不尽な存在」となります。そのため、「帝国の市民」メンバーは裁判所、警察、役所などとしばしばトラブルになっており、そのなかで武装化も進んできたと報告されています。(つづく)
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