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2018-05-31 14:23

官僚に嘘を強いる政治権力の非情

中村  仁  元全国紙記者
 加計学園の獣医学部新設を巡り、元首相秘書官の柳瀬氏への参考人質疑が行われ、真実を語っていないという批判を受けています。森友学園の関連文書の改ざんでも、財務省の元担当局長が証人喚問で集中砲火を浴びました。官僚は政治権力との関係で正直に証言しにくい立場だけに、叩こうとすれば、いくらでも叩けます。官僚を舞台にあげ、与野党や世論の批判の矢面に立たせる。それが続けられているうちは、政治権力の中枢は安泰です。内閣人事局が官僚人事を掌握するようになって、官僚を格段に動かしやすくなりました。問題が発覚すると、官僚は辻褄合わせに必死です。そんな官僚を叩き続けることに、虚しさを感じる人は多いでしょう。

 官僚にも責任はあります。政官の力関係が政に大きく傾いて以来、多くの官僚は政治に接近し、その意向に沿えば、出世街道を走れるチャンスが増える。官僚が政治との距離感をきちんと保とうとする時代はありました。次第にその節度が失われ始め、政治の懐に飛び込め、抜擢された者が勝ち組になれる時代に移ってしまったのは、官僚の側にも責任はありましょう。そうであっても、首相が一手に政治権力を掌握できる構図になりました。ですから、問題の案件の背後で政治権力がどのように動いていたか、その真相にたどりつくために、官僚を追及する証人喚問、参考人質疑には意義があります。ただし、政権に重大な打撃を与えるような証言はまず、引き出せないでしょうから、次第に官僚叩きが自己目的化する。それが最近の傾向です。

 大きな権限を握っている今井首相秘書官(経産省の出向)が、発売中の月刊誌のインタビュー記事で、「安倍政権として正直に説明していくかしかほかにない」と、語りました。森友学園の開設では、首相夫人が小学校の名誉校長だったことは、「うかつだった。首相にも道義的な責任がある」としました。こうした発言をした狙いは何なのかと、話題になっています。独自の判断で語ったとは思えず、恐らく官邸中枢の了解を取ったのでしょう。政権の中枢がいつまでも、国民をはぐらかすような発言を続けていれば、政治不信は一向に収まらないという考えがあるのでしょうか。森友も加計も、不透明な部分が多く、首相夫妻周辺にその発端があると、多くの国民は想像しています。もう少し踏み込んで真相を語り、謝らなければならいなら謝る。官僚だけをいつまでも矢面に立たせておくのは愚策でしょう。

 新聞論調を紹介しましょう。朝日新聞の社説(5月11日)は「加計優遇は明らかだ」との見出しで、「疑いはさらに深まった」、「多忙な首相秘書官が3度も学園関係者と会った」、「柳瀬氏の発言は不自然、およそ信じられない」、「愛媛県知事がどうしてすべてを正直に語れないのかと批判」と、厳しいですね。普段は与党寄りとされる読売新聞は、朝日以上に厳しい批判を浴びせています。「国会軽視の姿勢が混乱を招いた」との見出しで、「首相を慮り、柳瀬氏は事実を隠そうとしたと、されても止むをえない」、「首相は改めて事実関係を説明しなければならない」などなど。何度か申し上げてきましたように、モリカケ問題は、日本全体からみると、国会を一年以上も空転させるようなテーマではありません。首相は「友人の事業については、実は早くから知っていた。ただし、担当部署には公平、中立に扱うように伝えていた。発言の誤りについては、修正し撤回する」と、説明し、全容を調べたうえで公表するのが賢明です。
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