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2018-05-22 10:41

誰も信じない財政金融政策の目標

中村  仁  元全国紙記者
 国家経済の基本は、しっかりした財政金融政策にあります。そのまた基本である財政健全化計画も、日銀の物価目標も、ほとんど信頼されなくなりました。立案した時から実現はとても無理と見られているのに、政府、日銀は数値目標の改ざんともいうべきことをやってのけてきたのです。森友学園関係の文書改ざんは前代未聞の規模なのに、大阪地検特捜部は佐川・前国税庁長官を不起訴にする方針のようです(毎日新聞、読売新聞)。加計学園の獣医学部開設では、ウソだらけのような証言、発言の数々にあきれ返りました。政府、日銀の財政金融政策のいい加減さを拝見していると、モリカケ問題は本当に小さな小細工にすぎないように見えてきます。政府、日銀は「計画や目標を作らないわけにはいかない。達成できなくても、どうにかなるさ、なんとかなるさ」という気持ちで、財政金融政策に臨んでいるとしか思えません。新聞メディアの論説、解説記者たちが怒っても、民放のバラエティ番組はほとんど扱わないので、国民はモリカケ問題のように大騒ぎはしません。本当はこちらの問題のほうがはるかに重大なのです。

 評論家の立花隆氏が『知的ヒントの見つけ方』(文春新書)を出版しました。出版社は売らんかなの商魂から「知の巨人はこんなことを考えている」とのサブタイトルを添えています。日銀のマイナス金利を論じる一節があり、要約すると、「経済がさっぱり上向かない時、どうすればいいのかというと、可能な景気刺激策を片端から試してみるしかないのだ」との海外論評を読んで「何だか分かった」と。「知の巨人」が「景気刺激策を片端から試していると考えてみると、腑に落ちる」というのも無責任ではあります。どれかが正解ならともかく、片端から試しているうちに、日本は誤った財政、金融政策の泥沼にはまり込み、先進国経済の中で最悪、つまり先進国の片端に押しやられつつあるのです。450兆円もの国債を買った日銀の財務状況は先進国最悪の深刻さです。政府、日銀が選んだのは「異次元緩和によるアベノミクス」でした。5年前に新任の黒田総裁が安倍政権と語らって「2年間で2%の消費者物価を実現し、デフレを脱却する」と宣言しました。外れてばかりで、先送りを続けてきたため、目標を誰も信用しなくなりました。黒田総裁はとうとう「今後は2%実現の達成時期に言及しないことにする」と述べ、謝りもしません。

 もう一つは財政健全化目標です。安倍政権は「2020年度に基礎的財政収支を黒字化する」と約束してきました。黒字化どころか、長期国債の発行残高は1000兆円まで増え、目標達成が絶望的(8兆円の赤字見込み)になり、「25年度に黒字化する」と先延ばしする作業に入っています。この「5年先送り」も、トリックを使っていますから、6月に発表する段階で、達成はすでに絶望的でしょう。赤字を減らすには、税収増を図る必要があり、税収を増やすに経済成長率を高くするという前提を置いています。名目成長率を非現実的な3%台という前提です。実際は1%程度の成長を見込むのが無理のないところです。「5年先なら」と、逆算して成長率を設定するからこうなるのです。

 「財政支出を増やして、成長率を上げ、税収を増やし、財政を健全化させることは不可能。発行した国債を回収できるほどの税収が上がらない」というのがまともな経済学者の主張です。過去何十年もの間、理屈をつけては、積極財政をやり、その結果が積もり積もって1000兆円もの国債発行残高です。政権は支持率目当て、選挙目当てに財政資金をばらまきたいのです。与野党問わず、財政健全化は票にならないと思っています。やっと与党の中にも、「財政赤字に鈍感なのは日本が突出している」との危機感が生まれてきました。期待しております。学者や経済評論家の中にも、いい加減な財政論をぶつ人がおります。一例は「最大のウソつきは財務省で、日本の財政は先進国で最悪、だから消費税を上げないと破綻する主張している」という指摘です。債務(借金)ばかりを見ず、資産も調べて、差し引きして考えようというのです。「国は100兆円の米国債を持ち、売ろうと思えば売れる」、「道路も民営化すれば、株を売れる」、「官庁街や、1等地にある公務員住宅も売れる」、「日銀が保有する国債は返済や利払いが不要で、差し引きすれば、財政状態は決して悪くない」、「国債金利がゼロに近く、世界最低なのは、財政が健全である証拠だ」などなど。おかしな議論です。米国債を売ったら、ドル安・円高になります。道路を売ったら、有料道路に変わります。官庁ビルを売ったら、有料で借り戻さねばならなくなります。国債金利がゼロに近いのは、日銀の異次元金融緩和の結果です。いずれ正常化(出口)したら、国債金利が上がり、財政赤字が増大します。それでもいいのですかね。
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