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2018-03-30 10:30

ガラパゴス化が進む金融財政政策

中村  仁  元全国紙記者
 日銀の新しいトップ人事を見ますと、欧米の金融財政政策の転進から何周も遅れ、日本はいづれ淘汰されかねない。そんな体制が続きそうです。外界から遮断され、孤立した環境に長く置かれると、進化を忘れる。まるでガラパゴス化の運命が待っているような気がします。米国は年3回のペースで利上げを進め、欧州も金融緩和からの転換を図ろうとしています。日銀トップの次の体制による所信表明が行われ、学者から副総裁に転身する若田部早大教授に「また理論倒れの学者か」と、懸念する声が聞かれます。前任の同じリフレ派(金融緩和推進派)の岩田副総裁(前学習院大教授)も5年前の就任時に、「この人で大丈夫か」と、批判されました。岩田氏は「異次元緩和により、2年で2%の物価上昇を達成できなければ辞任する」、と自信満々でした。その2年がすぎ、5年経っても、「公約」は達成できず、「では辞任するのかな」と見守っていると、結局、任期いっぱい副総裁に座り、4月に退任します。非常識な人でした。

 「学者の非常識」はこれで終わりかと思っていましたら、後任の若田部氏も、「非常識」な財政金融論の発言を繰り返しています。副総裁は総裁を補佐する役目があるのに、黒田総裁以上の強硬なリフレ論者なのです。以前、総裁だった白川氏と若田部氏が論争した際、白川氏に「海外の経済学者が何を発言しているかではなく、自分の頭で考えたことを主張してほしい」といわれたとかで、クギを刺されたそうです。痛烈きわまる皮肉ですね。若田部氏の専攻は経済学史だそうですから、欧米の学説の研究には熱心だったのでしょう。白川氏は日銀の金融政策の目標として、「物価上昇率2%の達成」を掲げることに基本的には反対でした。「物価2%というアジェンダ(検討課題)の設定自体が誤り」という論者です。特定の物価数値でなく、様変わりしてきた時代を乗り切る政策の組み合わせこそ必要だというのです。その通りですね。国会で所信表明で若田部氏は、驚くようなことを言ってのけています。「金融政策には限界がない」、「国債購入が巨額になっているといっても、発行残高の4割であり、まだ6割が残っている」、「量的緩和は90兆円(現在80兆円がメド)まで許容」、「物価上昇2%の達成が難しければ、追加緩和策を」、「2%の達成以前に出口戦略(異次元緩和からの正常化)を発動することはない」、などなど。

 最近の経済常識は「金融政策の限界を知り、金融政策だけに負担をかけてはいけない」、「日銀が国債の全額を購入したら、市場から民間が排除されるし、財政節度がさらに失われる」、「実際、日銀は何も説明しないまま、国債購入額を減らし始めている」、「追加緩和をしても2%の物価上昇は無理」、「出口論どころか、日本は果たして出口にたどりつけるかどうかも分からない」などです。若田部氏は、首相側近で強硬なリフレ派の本田スイス大使(前内閣官房補佐官)と、財政政策では同意見といいます。本田氏は「デフレからの脱却には、大規模な財政出動と金融緩和が不可欠で、若田部氏は完全に理解している」と、指摘しています。

 強硬派を副総裁に置き、総裁や日銀ににらみをきかせるという計算でしょう。金融政策問題点をめぐる論争の常識とは、ほぼ正反対の主張なのです。欧米における財政金融政策からも反対方向に向いています。リフレ派が自分たちの主張のほうが正しいというのならば、財政節度を重視せず、異次元緩和を継続しても、「日本だけがなぜうまくいくのか」を立証しなければなりません。納得のできる説明は聞きませんね。日本の財政悪化は20年以上に及び、この間、なんども財政出動により、経済成長率を引き上げ、税収増を図ろうとしてきたことか。結局、国債残高が累増するだけでした。さらに財政赤字の最大の原因は高齢化による社会保障費の増大です。そこに手をつけないで、財政再建はできません。この点でも、成長路線と財政危機を区別する必要があります。
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