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2018-01-16 10:19

(連載1)「貧困をなくすために」宇宙進出を加速させるアフリカ

六辻 彰二  横浜市立大学講師
 2017年12月26日、南西アフリカにあるアンゴラの初めての人工衛星アンゴサット1(Angosat-1)がロシアの協力のもと、カザフスタンから打ち上げられました。翌27日にアンゴサット1との交信は途絶えましたが、関係者が復旧作業を行い、29日にロシアがコントロールを回復したと発表。約3億ドルを投入したアンゴサット1が星の藻屑となる事態は回避されました。貧困や飢餓といったマイナスのイメージがつきまとうアフリカが宇宙開発に参入することは、多くの人々にとって意外かもしれません。しかし、アンゴラ以前に既にアフリカ大陸54ヵ国中7ヵ国が災害対策、テレビを含む通信環境の改善、軍事利用などの目的で既に人工衛星を打ち上げており、その宇宙進出は今後も加速する見込みです。技術支援を行う側も含めて、アフリカの宇宙進出は「人工衛星が貧困などの社会問題を解決するうえで役に立つ」という考え方に基づきます。しかし、科学技術に社会を変える力があるとしても、それはイノベーション至上主義者が考えるほど無条件のものではなく、「技術革新の成果が出やすい社会」がなければ、アフリカの宇宙進出は「打ち上げ花火」で終わりかねないといえます。

 まず、アフリカ各国の宇宙進出の歴史を振り返ります。アフリカ大陸で初めて自前の人工衛星を保有したのはエジプトでした。宇宙開発がビジネス化され始めていた1998年、フランスのマトラ・マルコニ社によって製造されたエジプトのナイルサット101が、ヨーロッパの多国籍企業アリアンスペースのロケットに搭載されて打ち上げられ、北アフリカ一帯のテレビ、ラジオ電波の送信やデータ通信環境をカバーしました。しかし、初めて自前の人工衛星を製造したのは、これに続いた南アフリカでした。1999年、ステレンボッシュ大学大学院が製造したサンサットが、かつてスペースシャトルの発着に利用されていたヴァンデンバーグ空軍基地から米国のデルタIIロケットで打ち上げられました。これは初のアフリカ産人工衛星で、地表データの収集や電子データ転送通信などを目的としていましたが、2001年に通信が途絶えました。その後、南アフリカは2009年、今度は南アの産学官連携のプロジェクトとして新たな人工衛星サンバンディラサットをロシアのソユーズIIで打ち上げています。その後、アフリカ諸国の宇宙進出は、モロッコ(2001)、アルジェリア(2002)、ナイジェリア(2003)、モーリシャス(2007)、ガーナ(2017)に続かれており、今回のアンゴラは8番目の人工衛星保有国。この他、エチオピアとケニアでも計画中といわれます。

 しかし、貧しいアフリカが宇宙進出を目指すことを一種の「贅沢」とみなす意見もあります。実際、2000年代の資源ブーム以来、その経済成長が注目を集めるようになったとはいえ、アフリカはいまだに世界の最貧地帯です。世界銀行の統計によると、サハラ以南アフリカ平均で41.0パーセント(2013)の人口が1日1.9ドル以下の生活水準にあり、15歳以上の女性のHIV感染率は58.7パーセント(2016)と地域別で断トツで高く、相次ぐ内戦などによって難民数は約600万人(2016)にのぼります(World Bank, World Development Indicators Database)。これまでに人工衛星を打ち上げた国は、他のほとんどのアフリカ諸国より経済水準などで高いとはいえ、それでも人工衛星打ち上げには批判もあります。例えば、南アフリカでは約770万ドルをかけて製造した人工衛星サンバンディラサット打ち上げの際、議会では野党議員から「その資金をもっとよい使い道に回せたはず」と批判があがりました。この種の議論は人工衛星以外にも、例えば高速鉄道の敷設などでもみられます。

 これに拍車をかけているのは、国によって差はあるものの、2014年に資源価格が下落した後、アフリカ諸国の多くで経済成長にかげりが見え始めていることです。やはり世界銀行の統計によると、アフリカ平均で2000年から2013年まで平均4.8パーセントあったGDP成長率は、2016年には2.9パーセントにまで下落。今回、アンゴサット1を打ち上げたアンゴラはサハラ以南アフリカで第2の産油国ですが、2016年の成長率はゼロにまで落ち込んでいます。ただし、その一方で、人工衛星の打ち上げには「投資」の側面もあります。昨今のアフリカではしばしば、「貧困など社会問題を解決するための手段」として人工衛星の必要性が強調されています。例えば、アフリカでは携帯電話の普及が加速しており、これは単に通信手段の普及だけでなく、その他の産業に大きな波及効果を及ぼすことを意味します。例えば、ケニアで生まれた携帯電話を通じた送金サービスM-Pesaは、銀行口座をもてない貧困層にとって重要な金融サービスとして普及しており、同種の事業はルワンダなど近隣諸国でも生まれています。この環境のもと、通信環境の整備は不可欠の課題で、そのためにも人工衛星の需要は大きいといえます。(つづく)
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