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2007-04-12 22:29

本当に人口減でよいのだろうか

河合正男  元駐ノルウェー大使
 私の大先輩である湯下博之氏の記事を取り上げるのは恐縮であるが、3月23日付けの「『少子高齢化問題』を考え直そう」についてコメントさせていただきたい。湯下氏は「少子高齢化を防ぐために、とにかく子供が増えるようにするという発想は、間違っていると思う。人口減、長寿化という年来の夢の実現という変化は、決して困ることではない。人口の年齢構成の変化に合わせて諸制度を変化させ、質の高い人生を実現することが大切である」と主張しておられる。
 
 本当にそうだろうか。私は、むしろ逆で、他の先進国に較べても我が国ではこの問題についての危機感が遅れていると考えている。私が大使として在勤したノルウェーも日本も、他の先進国と同じように、女性の社会進出増により、1970年代に出生率が低下し始めた。1980年代の半ばに、ノルウェーの出生率は日本を下回る程にまでなった。しかし、その後の施策により、ノルウェーの出生率は1.8程度までに回復して来ている。我が国のそれは1.3を下回っている。ノルウェーでの出生率回復は「子供を産め」と押し付けた結果ではない。結婚したい人が結婚しやすく、また子供を生みたい人が子供を生み育てやすいように、制度改革を行った結果である。
 
 日本の問題を3つの観点から考えてみたい。第一に、少子化や人口減が日本人を本当に幸福にしているか、である。大多数の若者にとって「少子化」は「幸福」よりも「幸福でない」ことの現れである。これには大きな3つの原因がある。1つは、子供を産み育てる環境が不十分であること。2つ目に、労働強化や収入減等に見られる長期不況の影響。3つ目には、子供の教育費が高いことである。確かに「寿命が伸びることは喜ばしい」ことではあるが、人間は寿命が伸びるだけでは幸福になれない。活力ある人生を全う出来るかどうかが重要である。ところが、これからは高齢者介護の問題はどんどん大きくなって行く。早く制度改善をしなければならないが、制度はかえって弱体化しつつある。重度被介護者を抱えた家庭にとっては本当に深刻な問題である。
 
 第二の観点は経済である。「人口減により質の高い人生を実現する」ことはやさしいことでは全くない。人口減により高齢者の福祉予算や年金も減って行く。それどころではない。800兆円から1千兆円とも言われる国の借金を、減少して行く人口で如何に返済するのか。ほとんど不可能ではないか。人口減ということは若者が減ることであり、経済が拡大しにくいことである。経済が拡大しないで、若者に夢を抱かせることは難しい。
 
 第三には、国力への影響である。世界人口は今後50年間で29億人増加するとも言われている。日本の人口は出生率が1.3程度で推移すれば、50年後には4千万人減少して9千万人程になってしまうと言われる。人口減に伴う急速な国力低下への危機感から日本国内に急進的なナショナリズムが生まれてくる可能性がある。ヨーロッパの保守化現象にはその兆しがある。日本人が幸福であり、自信を持っていなければ、日本の対外関係の健全さを保持することにも悪影響が出る。このようなことを考えさせてくれた湯下氏の記事に感謝したい。
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