国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2007-04-04 00:17

安保協力の多角化と日米同盟

小笠原高雪  山梨学院大学教授
 佐島直子氏の3月16日付の投稿「日豪共同宣言を歓迎す:目指せ、JANZUS」を拝読し、大いに触発されたので、私なりの感想と所見を三点に絞って申し述べたい。

 第一に、3月13日に日豪両国首相によって署名された「安全保障協力に関する日豪共同宣言」の意義については、佐島投稿に同感である。英エコノミスト誌は「これによって日本の同盟国数は倍増した」という独特の言い回しで共同宣言の署名を伝えていたが、それと比較し日本のジャーナリズムの取り上げ方が――肯定的にせよ否定的にせよ――概して低調だったことを、私もいささか怪訝に感じている。既に実質的に積み上げられてきた両国の安保協力が制度化を始めたことは戦略的に大きな意味を持つであろうし、わが国の安全保障にも肯定的な意味を持つであろう、という佐島投稿の趣旨に私も全く賛成である。

 第二に、安保協力の地理的拡大は、今後どのように進めることが可能であろうか。この点について、佐島投稿は具体的な国名としてニュージーランドを挙げていたが、私はさらに議論を広げることも可能であると考えている。そもそも、わが国が安保協力を考える場合、その現実的な基盤となるのは海洋の安全に対する共通利害の存在であり、ある程度等質的な海軍力の共有であろう。そのような観点から考えるならば、カナダ、インド、そして若干の留保つきでシンガポールも候補となりうるであろう。このうち、インド洋については、既に英国の海軍力が撤退した1970年代から日本に対する種々の打診があったと仄聞するが、現に海上自衛隊の艦船が同海域に「常駐」している今日、その基盤は整いつつあるのではなかろうか。

 第三に、多角化する安保協力と既存の日米同盟との関係は、どのように考えるべきであろうか。佐島投稿は「日米豪にニュージーランドを加えたより安定的な多国間の安全保障取極め(JANZUS)」というアイディアを提起するとともに、その詳細については「稿を改める」と述べている。したがって、この点についての佐島氏の立場は現段階では判らないというべきであるが、先回りして私見を述べるならば、少なくとも中期的には、多角化する安保協力は日米同盟の解消ではなく、その存続を前提とした多層的な関係づくりをつうじてなされるべきだと考える。日米同盟には朝鮮半島や台湾海峡といったきわめて具体的な争点が伴っており、日米同盟の性急な解消は抑止力の信頼性に不確定要素を増やし、そうした地域を不安定化する可能性を否定しきれないと考えるからである。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム