国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2017-09-20 12:52

(連載1)“平和の基礎”を守る武力行使vs“平和的手段”による平和の破壊

倉西 雅子  政治学者
 北朝鮮問題は、国連安保理において制裁強化のための決議が成立したものの、未だ視界不明瞭の状態にあります。この問題、突き詰めてゆきますと、「“平和の基礎”を守るための武力行使」と「“平和的手段”による平和(正確には“平和の基礎”)の破壊」の間の二者択一となるのではないかと思うのです。ここでは、“平和の基礎”という言葉は、一先ずは、国際社会の安定を支える法秩序、即ち、一般的ルールに基づく体制やその目的を実現するための制度という意味で使用しています。国家にあって法秩序なくして全ての国民の安全(治安)が守られないように、国際社会にあっても、全ての国家の安寧、即ち、侵略や武力による威嚇なき平和は、法秩序なくしてあり得ません。国家の行動規範となるべき法やルールが存在し、それらが一定のフォームを成して諸国を規律するからこそ、侵略行為やジェノサイド等の違法が国際犯罪と見なさるのです。そして、平和に対する脅威に対しては、各国の自衛の権利のみならず、国連レベルでも軍事的措置による排除が認めています。

 一方、“平和的手段”とは、一般的には紛争に際して武力を用いない解決方法を意味します。国連憲章においても明記されているように、国連加盟国には、先ずは、外交交渉、調停、仲裁裁判、国際司法制度の利用など、紛争の平和的解決が義務付けられています(国連憲章第6章)。加えて経済制裁も、軍事的措置と並ぶ実力行使による危機の排除方法でありながら(国連憲章第7章)、武力を用いないという意味においては平和的手段の一つと見なされています。何れにしても、戦後の国際社会では、紛争が発生する度に、“平和的手段”を以って解決せよ、との大合唱が起きるのです。

 “平和の基礎”と“平和的手段”との違いを念頭に置きながら北朝鮮問題を見据えますと、今日、人類が直面している深刻なジレンマが見えてきます。何故ならば、“平和の基礎”を守ろうとすれば武力を行使せざるを得ない場合があり、一方、あくまでも“平和的手段”に固執するならば、“平和の基礎”が破壊される場合があるからです。北朝鮮問題の場合には、“平和の基礎”とはNPT体制を意味しており(因みに南シナ海をめぐる中国の国際仲裁判決の破棄は、国際司法制度の崩壊をもたらす…)、上記の立場の何れかを選択するのかによって、NPT体制の運命が決まってきます。

 NPT体制とは、基本的な構図としては、核保有国を“世界の警察官”と目されている国連安保理の常任理事国に凡そ限定し、核不拡散の義務を負わせる一方で、非保有国に対しては核の開発や保有を禁じる体制です。不平等条約との批判がありながらも、核保有国の特権は、国連常任理事国の地位と同様に、国際社会における“警察官”としての役割と平和に対する責任を引き受け、権利と義務をバランスさせることで、一先ずは是認されてきたと言えます。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム