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2007-03-23 09:30

「少子高齢化問題」を考えなおそう

湯下 博之  杏林大学客員教授
 「少子高齢化問題」が大きな問題になっている。早く子供を増やさないと日本は大変なことになってしまうと言わんばかりである。でも、そうだろうか。熱しやすく冷めやすい日本人として当面のことだけに注目するのではなく、長期的観点をも踏まえてよく考えてみることが必要と思われるので、その視点から三つのことを指摘したい。

 第一に、日本はもともと狭い国土に多数の人口を抱えて、どうやって人口を増やさないようにするかという問題に、長期にわたり国を挙げて取り組んできた国である。移民政策もそうであるし、家族計画とか産児制限ということが大声で叫ばれたが、それでも人口はどんどん増え続けた。その結果、これだけ国が豊かになったにもかかわらず、通勤ラッシュに象徴されるような人口過密となり、発展途上国の人々の家に比べてもはるかに狭い住居で自宅にお客を招くことも気がひけるような生活を続けるはめになってしまった。したがって、人口増加が止まり、減少に向かうということ自体は、永年来の日本の目標が実現することであって、少なくとも胸をなでおろしてよいこと、更に言えば国を挙げて万歳と叫んでもよいことの筈である。大切なのは日本人の生活の質であり、人間らしい生活を可能にする妥当な規模にまで人口が減少することは、望ましいことなのではないであろうか。

 第二に、「高齢化」ということについても「長生き」は昔から人類の夢であり、寿命が伸びること自体は喜ばしいことの筈である。「高齢化」は同時に「長寿化」でもあり、長寿社会の実現は祝ってよいことのはずである。問題は、「元気で」長生きするかどうかであって、そのためになすべきことがあるのは当然である。ところが、そのための方策をこそ議論するというのではなく、長生きする人がふえることが問題であるかのように考えることは、正しくないと思う。

 第三に、日本人の平均寿命が伸びて、長寿化が実現した結果、日本人の年齢構成が大きく変化しているのに、諸制度も社会の考え方も、その事実に合わせて変えるということをしていない。これでは、社会の仕組みが現実に合わなくなり、したがって機能しなくなったり、このままでは、これこそ日本は大変なことになってしまうであろうのに、諸制度や考え方を変える真剣な努力がなされていない。例えば、15歳から64歳までが生産年齢人口であるとして、定年や年金の制度が作られている。これが妥当であった時代もあったが、今やこれではもつ訳がない。人生50年といわれていた頃は、定年は50歳以下でよかったであろう。しかし、人生80年となった時代には、75歳位までを生産年齢人口として諸制度を組み立てなければ、機能しないと思う。私は、若い人達が安心して子供を産める社会を作ることには勿論賛成である。是非そういう社会にしなければならないと思う。しかし、少子高齢化を防ぐために、とにかく子供が増えるようにするという発想は、間違っていると思う。人口減、長寿化という年来の夢の実現という変化は、決して困ることではない。人口の年齢構成の変化に合わせて諸制度を変化させ、質の高い人生を実現することが大切である。それに反対する人がいるのであれば、それこそ困ったことである。
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