国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2007-03-16 18:58

日豪共同宣言を歓迎す:目指せ、JANZUS

佐島  直子  専修大学経済学部教授
 さる3月13日、日本の安倍晋三総理大臣とオーストラリアのジョン・ハワード首相は、「安全保障協力に関する日豪共同宣言」に署名した。今後、日本及びオーストラリアは、「安全保障協力を推進するため、具体的な措置を伴う行動計画を策定」し、年次ベースで「定期的な大臣間の対話」、「外務・防衛両省の合同対話」を実施して、「戦略対話を強化」する。長年、日豪の安全保障関係の重要性を唱え、この日の来るのを心待ちにしてきた者として、喜びに耐えない。マス・メディアの扱いの「そっけなさ」には失望しているが、この共同宣言が、今後の日本の戦略的選択肢に与える影響は少なくないことを改めて強調しておきたい。

 冷戦期、西側陣営の「南北の錨」と呼ばれた日豪は、冷戦後の1992年、カンボジアにおける国連平和維持活動で共同して主導的な役割を果たして以来、地域安全保障における協調関係を強く意識してきた。また、1996年には、「日米安保共同宣言」、「米豪安保共同宣言」を相次いで発表し、冷戦後も米国を通じた安全保障上の連携を維持していることを確認したが、2001年の同時多発テロ後、より直接的な安全保障協力の機会を増した。陸上自衛隊が派遣されたイラク・サマーワの治安をオーストラリア軍が担い、共同してその復興支援に当たったことは記憶に新しい。

 もはや、日豪の政治的協調と安全保障上の連携は恒常化しており、いまさら共同で宣言を発表するまでもない、と感じる関係者もいることだろう。しかしながら、これまでの日豪の安全保障関係は、あくまでの折々の状況に対応する「アド・ホック」なものである。協力関係のバックボーンは、時に国連であり、時に米国主導の有志連合であった。日豪の安全保障関係を直接担保する条約、包括的な協定は存在せず、両国の安全保障協力は、長年にわたる両国の友好関係、密接な経済関係、米国を通じた間接的な同盟関係、共有する価値観や利害などによって、ケース・バイ・ケースで確認されてきたものである。

 両国の直接的な安全保障関係の強化には、それぞれの国内に幾許かの克服すべき障壁があり、必ずしも無条件で推進されてきたわけではない。これらについては、拙稿「日豪に戦略的関係は築けるか?(『外交フォーラム』2006年6月号参照)。この点、今回の共同宣言は、安全保障に特化した形で両国首脳が具体的な二国間の関係強化を取り上げた初めての国際的確約であり、アジア・太平洋地域において日本とオーストラリアが、「民主主義という価値並びに人権、自由及び法の支配」を主導的・主体的に担うことを表明している点で画期的である。

  確認された日豪共通の立場は、表層的な外交の動向などよりはるかに重要である。「六カ国協議」における日本独自の主張が「外交的孤立」などと大袈裟に喧伝されているが、こんなことに惑わされてはいけない。オーストラリアは、日本外交を支えるオールタナティブな同志(マイト)である。願わくは、今回の合意を、日米豪関係にユニークな小国ニュージーランドを加えたより安定的な多国間の安全保障取極め(JANZUS)へと深化させたい、というのが筆者の自論だが、これについては稿を改めることといたしたい。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム