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2017-04-14 09:03

トランプ、対中改善に大きく前進

杉浦 正章  政治評論家
 日本や西欧など同盟国との関係を構築した米大統領トランプは、オバマが悪化させたロシア、中国との関係再構築に取りかかっている。しかし、対中関係改善が大きく先行したのに対して、対露関係は自ら「史上最悪」と言い切るほど好転していない。トランプは選挙中にロシアに大接近したものの、その先兵となったマイケル・フリンを国家安全保障補佐官から外した。大統領就任前にロシア大使と接触した疑惑が理由である。代わりに就任させたマクマスターらに主導権が移り、シリア攻撃などロシアの神経逆なでの行動に出た。米政権内部の主導権争いも作用したのだ。国務長官ティラーソンをモスクワに派遣したが、シリアをめぐる亀裂だけが際立った。これと対照的にトランプと習近平との関係は驚くほど好転している。習近平がトランプに気軽に電話するような関係になったのだ。おまけに4月12日の電話会談の中身たるや、出来るだけ早期の訪中を望む習近平に、トランプは快く応ずるという蜜月ぶりだ。会談でもっとも注目されるのは、トランプが習近平に国連安保理におけるアサドの化学兵器使用を非難する決議への配慮を求めたことにどのような対応をするかであった。これに対して、習近平は「棄権」という対応に出たのだ。拒否権を行使したロシアは完全に孤立した。

 6年にわたるシリア内戦中にロシアが拒否権を行使したのは8回目。同じく常任理事国で過去に6回拒否権を行使している中国が棄権し、ロシアに同調しなかった事は、外交上大きな意味を持つ。トランプは「素晴らしい。だが棄権したことに驚きはない」と、得意げに自らの根回しをほのめかしている。「習近平氏とはケミストリーが合う」とまで言いきっている。しかし、対中関係も、北朝鮮の核ミサイル開発問題をめぐっては、さらなる制裁を求めるトランプに対して、習が石油の供給制限などドラスティックな対応をするかどうかの問題もあり、まだ予断を許さない。こうしたトランプ外交も身内の進言に左右されることが分かって来た。 夫ジャレッド・クシュナーとともにその絶大な影響力からトランプの「秘密兵器」とも呼ばれているイバンカは、シリアへのミサイル攻撃にまで影響を及ぼしている。実弟エリック・トランプは英テレグラフ紙に「イバンカは3人の子供を持つ母親で、大きな影響力を持っている。彼女はきっと『聞いてお父さん、こんなのひどすぎる』という具合に言ったと思う。父(トランプ)は、そういう時には動く人だ」と証言している。

 こうした内情が反映して、中国とは対照的に、対露関係は「険悪」ともいう事態になっている。しかし、筆者はシリアへの一回限りの攻撃で関係悪化が長期に継続するとは思えない。ティラーソンが外相ラブロフと5時間、トランプと2時間も会談したことの意味は、両者がそうとう突っ込んで様々な問題を語り合ったことを物語っている。両外相は冷戦後最悪と言われるほど悪化した米ロ関係の改善に取り組む必要性では一致している。加えてプーチンは、アメリカ軍による空爆が過激派組織ISなどのテロ組織を対象にする場合、いったん閉鎖した連絡窓口の運用を再開する用意があることを確認している。就任後初めてロシアを訪れたティラーソンに対し、ISとの戦いではトランプ政権と協力していく姿勢を示して、花を持たせているのも注目される。報道官ペスコフも「非常に建設的な会談だった。さまざまな問題の解決策を探るため、対話を維持することが必要だという指摘があった」と述べている。

 米露会談で重要な点は、対露制裁問題が話し合われたかどうかだ。合計7時間もの会談の中で、すくなくともロシア側が言及しないことはあるまい。ウクライナ問題に端を発して対露制裁措置を講じている主要国は米国と欧州連合(EU)であり、カナダ、豪州、日本は独自の制裁を発動している。トランプは政権に就く前は対露制裁解除に前向きであった。更迭されたフリンはその意を受けて駐米ロシア大使と対露制裁について協議していたのであろう。EUは昨年末の首脳会議で対露経済制裁を1月の期限から半年延長することで合意した。欧州諸国はイギリスが強硬論であるのに対して、ドイツ、フランス、イタリアなどには「制裁疲れの様子」が見え始めているようだ。5月のシチリア・サミットでも話し合われる公算が強いが、問題の焦点はやはりトランプがどう動くかに絞られよう。こうした情勢の中で首相・安倍晋三の訪露は4月下旬行われる予定だ。安倍はロシアとの共同経済活動を先行させて領土問題につなげるという大きな方針転換を行った。この経済活動によって日露の信頼関係を深め、主権の問題を解決しようという試みは、世界的に見ても前例のないアプローチである。四面楚歌のプーチンに対して譲歩を迫る好機とも言える。一方で、るる述べてきたような激動する世界情勢を大局的な見地から話し合うこともまた重要だろう。
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