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2017-02-02 08:24

安倍は硬軟両様で“トランプ調教”に臨め

杉浦 正章  政治評論家
 トランプに理解させるためには、首相・安倍晋三は子供の絵本のような数枚のペーパーを渡し、やさしく図解して説明する必要があるのではないか。まるでかみつき犬のように手当たり次第に牙をむきだしてくるトランプだが、今度は認識を誤り、筋違いの対日為替政策批判に出た。安倍は予算委できっぱり「円安誘導は当たらない」と全面否定した。これが2月10日の会談前に伝わる事は言うまでもない。安倍は硬軟両様を使い分け、自動車、為替、環太平洋経済連携協定(TPP)ではゲーリー・クーパーのごとく毅然として「友情ある説得」を展開すればよい。他方で、ウインウインの関係樹立を目指した前向きの提案を、安全保障、新幹線、橋梁建設技術などの公共事業の面で行うことが必要だ。首脳会談は知性対感情の戦いになりそうであるが、トランプはごまをすれば馬鹿にして、切り返せば耳を傾ける習性がある。またイスラム圏と「特別な関係にある」西欧諸国首脳の「トランプの移民排除はけしからん」論に同調する必要などさらさらない。安倍とトランプがゴルフをすることは日米連携の大局からはいいことだが、発言に気をつけないと、目立ちすぎて、世界のマスコミから“皮肉られる”危険性がある。

 トランプは人の意見をすぐに採用するたちである。誰も気付いていないが、対日為替批判もフォードCEOの入れ知恵だ。トランプは先月24日、ホワイトハウスで米自動車メーカー大手3社の首脳と会談した。この席でフォードCEOのフィールズが、自社の対日売り込み努力の欠如を棚に上げて、「TPPは貿易相手国による為替相場への介入に対処していない」と指摘、大統領の脱退決定を高く評価。その上で「すべての貿易障壁の根源は為替操作だ。TPPはこの問題に適切な対応を取っていない。悪い取引からの撤退を決めた大統領の勇気に感謝している」とお追従をしたのだ。これにトランプは悪乗りして、対日批判となったに違いない。だからトランプが「中国や日本がやってきたことを見てみろ。米国が黙って座っている間に為替を操作した。日本は円安に誘導して、われわれはばかを見た」と発言したのであろう。通貨問題は総じて国家主権の問題であり、他国首脳が異例の口先介入すべき問題ではない。

 安倍は予算委で「通貨安誘導の指摘は当たらない。必要があれば、そういう説明をする」ときっぱり否定した。もしトランプに日銀の異次元の金融緩和を否定する意図があったとなれば、アベノミクスの根幹の否定であり、デフレ脱却という国家目標にまで切り込んだ内政干渉ということになる。世の中には黙認できることとできないことがあることを、トランプに“よく分かるように”知らさなければなるまい。一部でささやかれるように貿易協定の中に為替制限条項など挿入すれば、まさに貿易・為替戦争になりかねない事態であり、論外である。安倍は絵本でドイツ車が日本でいかに売れているかを説明する必要がある。2015年の数字ではフォルクスワーゲンが前年比4.4%増の68万5,669台、メルセデス・ベンツが5.3%増の28万6,883台、アウディが3.7%増の26万9,047台だ。なぜ売れるかと言えば、高級志向が日本の国民性に合致するからだ。だいいち日本の関税はゼロで、米国の関税は2・5%だ。加えて欧州車に比べて、アメリカ車のメーカーは日本で全然広告を出していない。米国は最大の自動車市場であり、米国メーカーはわざわざ日本向けに右ハンドルの小型高級車を製造して販売するまでに至らないのだ。ペイしないと見ているのだ。デザインも日本人好みではない。日本車も米国人好みのデザインのものは日本でも全く人気が沸かない。デザインも高級感も日本車や欧州車に劣るものを製造しておいて、為替操作のせいにするフォードの根性はあきれる。筆者はフォードのムスタング・マッハ1で音より早くワシントン市内を駆け回っていたが、1970年代のアメ車のような魅力を、もう日本人は感じない。ひとえに米国メーカーの努力不足のせいだ。安倍はこの実情を諄々(じゅんじゅん)と説けばよい。自動車メーカーが米国で作り出した雇用は150万人だ。

 また安倍はトランプにTPPの重要性、とりわけ対中包囲網という戦略的色彩の濃い協定であることを、絵本で説明する必要がある。国会で安倍は「1対1のFTAではなく、成長著しいアジア地域においてマルチのルールを作ることの重要性を説く」と説明した。トランプは「永久に離脱」と意気軒昂だが、安倍が「腰を据えて説明する」としており、長期戦でよい。その間英国との自由貿易協定(FTA)やEUとの経済連携協定(EPA)などを、TPPを参考にどんどん推進して、米国を置いてけぼりにしてしまえばよい。やがてトランプも自らの立脚点が保護貿易でなく自由貿易であることに気付くであろう。途中で政権がつぶれれば、新政権に働きかければよい。同盟関係については、電話会談でトランプが国防長官ジェームズ・マティスの訪日について「よろしく」と述べたことが物語るように、かつての核保有論は影を潜めた。おそらく75%を超える日本の米軍基地の負担をさらに求める非常識さも薄れているだろう。問題は防衛費をGDPの1%以内とする三木武夫が決めた方針の撤回を求める可能性があるが、これには柔軟に応じた方がよい。極東をめぐる環境悪化はそれを必要としているのではないか。

 また朝日が「トランプ国会首相守勢」と報じたのに乗じてか、民主党が、トランプの7か国移民の入国禁止を安倍が欧州諸国首脳のように批判していない点を、鬼の首を取ったように追及している。しかし、問題の実相をとらえていない。米欧はもともとイスラム圏との結びつきが強く、それこそ「特別な関係」にあるから、トランプを批判するのであって、日本までが同調する必要などさらさらない。難民受け入れが世界の安定につながるように、日本のアジア、中近東、アフリカなどへの政府開発援助(ODA)や各種援助がどれほど難民流出防止に役立っているかを知るべきである。日本の支出総額は過去10年間で10兆4000億円に達し、対中ODAは、1979年に開始されて以来6兆円を上回る額である。中国難民やフィリピン難民などが発生しなかったのは、日本の貢献によるところが大きい。そもそも中東難民は日本では生きていけない。イラン人の日本への渡航が1980年代末期から急増して社会的な混乱を招き、ビザ相互免除協定を終了させて減少させた事は記憶に新しい。難民が生じる前に、経済的に手を打って防止するのが、イスラム諸国の住民にとってももっとも幸せなのであって、安倍が明言したようにシリア難民を受け入れる必要などない。
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