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2016-12-27 17:39

トランプ氏の南シナ海対中牽制発言

倉西 雅子  政治学者
 アメリカのトランプ次期大統領は、南シナ海における中国による軍事拠点化について、痛烈な言葉を投げかけたと報じられております。“我々に尋ねたのか?”と…。

 誰もが、この言葉は、一方的に南シナ海に人工島を建設して軍事拠点化を推進してきた中国に対する牽制と理解したことでしょう。名指しされた中国も、当然に、南シナ海問題における中国の身勝手な行動は許さない、とするアメリカの次期政権の決意を読み取ったはずです。南シナ海問題については、仲裁裁定に対して中国が無視を決め込んだことから先行きが危ぶまれていましたが、トランプ氏の発言を読む限り、近い将来、如何なる手段であれ、中国は、軍事拠点化放棄へと追い込まれそうな気配がするのです。

 これまで傍若無人に振る舞ってきた中国に対して、遂に、外部からストップがかかるわけですから、トランプ氏の発言は、それが言葉の段階であれ、高く評価されるべきことです。しかしながら、その一方で、懸念材料がないわけではありません。それは、“我々に尋ねたのか?”の“我々”は、他の為替操作国認定問題や対米関税問題に関する表現からしますと、“アメリカ”と解せざるを得ないのです。ところが、南シナ海問題は、国連海洋法条約上の違法性が問われたように、その本質において国際法秩序の問題です。実際に、目下アメリカが実施している“航行の自由作戦”は、その名が示すように航行の自由という国際社会の原則を守るために行われており、イギリスも、先日、日本国に派遣した英空軍タイフーン戦闘機を南シナ海上空を飛行させることで、国際問題であることをデモンストレーションしています。国際社会の一員として法の支配、即ち、仲裁裁定の遵守を中国に強く求めるのは、日本国政府の基本的な立場でもあります。

 そして、仮に、トランプ氏が、この問題を米中の二国間問題として扱う心づもりであるとしますと、国際社会が酷く困惑する事態の発生もあり得ます。それは、アメリカが“yes”に転じることで、中国の南シナ海軍事拠点化が許されてしまう事態です。今般の発言は、対中強硬姿勢である故に安心できるのですが、一旦、二国間問題に矮小化されてしまうと、中国による巧みな懐柔策によってアメリカが籠絡されないとも限らないのです。アメリカの国内事情を考慮すれば、“アメリカ・ファースト”の方針は理解に難くありませんが、アメリカは、国際法秩序の擁護者であってこそ、国際社会から“偉大なるアメリカ”として尊敬される国になるのではないかと思うのです。
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