国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2016-11-17 14:30

共産主義の“解放”と新自由主義の“開放”

倉西 雅子  政治学者
 人間とは、本質的に自由を求めるものですので、束縛からの“解放”や開かれた世界を約束する“開放”といった言葉には弱いものです。しかしながら、これらの魅力的な言葉に、人は、しばしば裏切られます。共産主義の“解放”は、国家への隷従を帰結し、新自由主義の“開放”も、富やチャンスが偏った閉塞社会しかもたらしませんでした。

 それでは、こうした期待外れの“どんでん返し”は、何故、起きるのでしょうか。その最大の理由は、唱道者達は、決して“その先”を明示しないところにあります。マルクスは、資本家階級からプロレタリアートを解放し、プロレタリアートによる独裁が実現すれば、搾取装置としての国家は消滅すると主張しました。搾取=国家の構図を示すことで、両者の同時消滅が是認されたのですが、その後に如何なる統治の仕組みが登場するのか、という問題については、殆ど何も語りませんでした。

 新自由主義者もまた、全ての障壁を取り除いて国境を開放すれば、個人の自由が最大化する理想社会が出現すると説いています。しかしながら、その先に、如何なる社会状況が現れるのか、という問いには口をつぐんでいます。結局、イギリス国民は、中間層の崩壊、アイデンティティーの喪失、治安の悪化、及び、社会的変質等…を伴う移民の大量流入に怖れをなし、国境管理の権限を取り戻すためにEU離脱を選択しました。

 “その先”を明瞭に示していない思想への安易な同調は、行く先不明のバスに乗ることと変わりはありません。知らず知らずのうちに、逆方向に連れてゆかれるかもしれないのですから。共産主義の“解放”も、新自由主義の“開放”も、共に耳に心地よく響く言葉ではありますが、迂闊に騙されてはならないと思うのです。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム