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2016-10-31 17:43

変わるべきは新自由主義では?

倉西 雅子  政治学者
 西ローマ帝国の消滅以来、ヨーロッパには、帝国らしい帝国は誕生しませんでした。シャルルマーニュが築いたフランク帝国も相続によって分割され、ハプスブルク家も、ナポレオンも、そしてヒトラーも、帝国の夢を実現させることは叶いませんでした。一方、今日のEUも、全ヨーロッパ諸国を覆う寸前にあって、イギリスが離脱を決定しています。

 EUの基本モデルは、広域的な経済圏を基盤とした国家連合であり、帝国化の失敗の歴史に鑑みて、政治的な摩擦を極力回避する方法で統合を推進してきました。EUの主柱である欧州市場は、モノ、サービス、資本、人の自由移動を基本原則としています。しかしながら、基本原則の一つである“人の自由移動”は、たとえ経済目的であったとしても、必然的に国民の枠組みの融解と国家喪失という政治的側面を伴います。政治問題化は時間の問題であったのであり、その表面化が、イギリスをしてEU離脱を決断させたのでしょう。

 ところで、EUが原則とする人の移動の自由化は、新自由主義の基本的政策方針の一つでもあり、EUに限定されたお話ではありません。違いがあるとすれば、EUの方が欧州市場においてより規制志向なのですが、少なくとも、今日、日本国を含めて世界大に警戒感が広がっているのは、新自由主義が提唱する経済活性化の“特効薬”としての人の自由移動、即ち、移民受け入れ促進政策です。グローバリストとも称される新自由主義者によれば、景気の停滞や低成長の原因は日本国の閉鎖性にあり、移民政策で多様性を高めれば、成長軌道に乗れるというのです。何事においても、新自由主義者の人々は、発想の転換やイノヴェーションを声高に叫び、政府に対してであれ、企業に対してであれ、技術者に対してであれ、自らの方針に従わない相手に対して劇的な“変革”や“開放”の受容を求めてくるのです。“あなたのために…”という親切な言葉で…。

 しかしながら、新自由主義は、中間層を破壊しつつ経済格差を広げる一方で、富裕層には租税回避の自由を与えました。新自由主義の結果に対して世界レベルでの反感が呼び起こされている現状を見ますと、“変わるべきなのはどちらなのか?”という疑問が湧いてきます。新自由主義は、“新”と称しながら、その手法においては、案外、旧態依然としているからです(経済的利益第一主義と後先構わずの自由化一辺倒…)。そして、その求めるところが人間の本質に反するために、一種のアレルギーを起こしているとも考えられるのです。心底から相手を思って提言しているのかもしれませんが、新自由主義者には、自分自身の主義主張をも真摯に疑い、そして、新自由主義という思想の檻から脱して、自らにも変革を求めていただきたいと思うのです。
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