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2016-09-26 17:03

(連載1)フィリピンはどこへゆく

児玉 克哉  社会貢献推進機構理事長
 フィリピンの経済発展はこれまでかなり順調だ。以前は「いつまでも出遅れ国」と言われ、他のASEAN諸国のいくつかの優等生と比較され、揶揄されていた。タイ、ベトナム、マレーシア、インドネシアが成長を遂げるなか、フィリピンにも成長の波が訪れてきた。2012年以降の経済成長率はASEAN主要国のなかでもトップクラスになった。貧富の差が激しく、一般国民がそれほど豊かになったようにはみえなくとも、着実に経済発展をしてきた。NEXT11はアメリカ投資銀行のゴールドマン・サックス及びエコノミストのジム・オニールがBRICs諸国に次いで21世紀有数の経済大国に成長する高い潜在性があるとした11カ国のことだ。その中にフィリピンは入っている。ちなみに他の10カ国はイラン、インドネシア、エジプト、トルコ、ナイジェリア、パキスタン、バングラデシュ、ベトナム、メキシコ、大韓民国だ。フィリピンはASEAN第2位の人口と国民の英語運用能力の高さがある。英語の運用能力としては、シンガポールに次ぐもので、「人材」が資源といえる国だ。それに若者が多いこともメリットだ。日本や中国、韓国が少子高齢化に苦しむ一方、フィリピンには若い力がある。期待できる。

 そのフィリピンの大統領に就任したのがドゥテルテ氏だ。ドゥテルテ大統領は大統領選でも非常に過激な発言が目立ち、注目されていた。ドゥテルテ大統領の支持率は異常に高く7月には91%を記録した。大統領への期待は高い。大統領に就任すると過激なのは発言だけでなく、行動も過激であることがわかった。ドゥテルテ大統領が推進する犯罪撲滅作戦は超法規的な手法を容認するものとなっている。つまり麻薬関係者は裁判などにかけなくても「殺していい」ということだ。そして実際にすでに多くの人が殺されている。

 麻薬に厳しい国はかなりある。シンガポールでは麻薬密売人が死刑になるのは珍しくない。死刑を逃れても長期の刑務所行きだ。中国やベトナムも厳しい国として知られている。中国では麻薬常習者は処刑もあったようだが最近はベトナムのように長期の施設送りになる。いずれにしても少なくとも形としては裁判があり法に従っている。フィリピンの現在のやり方は超法規的であり異常だ。これを平然と実践しているのはIS、イスラム国くらいだ。ドゥテルテ大統領はメディアへの圧力も加えて言論の自由も奪いつつある。さすがに国連だけでなく国際NGOや宗教団体、国際メディアも批判の声をあげている。ドゥテルテ大統領は過激な発言が目立ち選挙中も期待と不安の両方があった。現実に超法規的殺人が多くなされ批判が高まっている。大統領自身が処罰される可能性もある。あるいはその前に暗殺される可能性もある。麻薬組織はドゥテルテ大統領の首に懸賞金をかけたというニュースも飛んでいる。フィリピンに秩序をもたらすはずの麻薬撲滅活動がフィリピンに新たな混乱をもたらすかも知れない。

 ドゥテルテ大統領が推進する犯罪撲滅作戦はフィリピンを「暴力容認」国へと導く可能性がある。この作戦は次の殺害を起こしている。「(1)警察による麻薬関係者の殺害、(2)自警団による麻薬関係者の殺害、(3)麻薬組織による口封じのための殺害、(4)麻薬組織からの報復、(5)麻薬関係者殺害に託けた別個の殺人」だ。「超法規的措置」は社会秩序を破壊する。麻薬組織も黙って撲滅されるわけではなく激しい戦いになる。自警団が関わることにより一般民も巻き込んだ戦いになりうる。(つづく)
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