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2016-09-08 10:45

(連載2)EU崩壊のリスクはまだ終わっていない

児玉 克哉  社会貢献推進機構理事長
 フランスではブルキニ着用禁止の動きがあり、激しい議論を呼んでいる。ブルキニはブルカとビキニからの造語だ。イスラム教では女性が肌を出すことが禁止されている。それをクリアしながら女性が水泳できるようにデザインされたのがブルキニだ。ブルキニはブルカと異なり顔を出すデザインで、一般のダイビングスーツのようなもの。禁止する理由は宗教的なもの以外にはあまりない。基本的にイスラム教徒への嫌がらせという感じだ。イスラム教徒を排除しようという動きであり、非常に深刻だ。「イスラム教徒お断り」に近い話だ。この水着の問題は夏の一時期だけの話だが、今後、一般の公共の場でイスラム的なものがすべて問題視される可能性がある。ブルキニ禁止の論理でいけば、公共の場では髪だけをスカーフで隠すヘジャブさえも問題視されることになる。さらに議論はエスカレートしそうだ。ドイツでも状況は深刻だ。ケルンでは移民による2015年末の暴動が報道され、非常に険悪なムードが続いている。ドイツはヨーロッパで最も移民・難民に優しい国として知られてきたが、徐々に雰囲気は変わりつつある。

 EUを牽引してきたのはドイツであり、そのトップのメルケル首相だ。メルケル氏が首相に就任したのは2005年。実に11年もの間、ドイツ、そしてEUを引っ張ってきた。これは素晴らしい。ほぼ一貫してメルケル氏は国民から高い支持を得て、ドイツとEUの発展に寄与してきた。それが移民問題がクローズアップされる中で、首相の座への再出馬を見送るべきだという声が高まりつつある。8月28日付ロイターは次のように報じている。「ドイツのビルト紙日曜版の委託で501人を対象に実施された世論調査によると、7月に発生した一連の攻撃事件以後、メルケル首相が来年の連邦選挙後も4期目を続投することに反対との国民の割合が、全体の50%に上昇した。続投を希望したのは42%だった」メルケル首相も4期目の出馬については言明を避けている。EUの中心にいたメルケル氏が首相の座を降りることになったら、状況はかなり変わる。もちろん、次の首相の顔によって差は出るのだが、移民問題がクローズアップされてのことだから、おそらく移民にはより厳しい首相になる可能性が高い。これからドイツ国内の政治勢力の地殻変動が起きるかも知れない。

 フランスも来年は大統領選。オランド大統領の再選は危ぶまれている。フランスは失業率が高く、オランド大統領の不支持率が高くなっている。サルコジ前大統領やジュペ元首相らが出馬を狙っており、どちらかになる確率が高い。しかしテロや難民問題を背景に支持を伸ばす極右政党・国民戦線(FN)のマリーヌ・ル・ペン党首も有力な候補者になっている。かつては父で初代党首のジャン=マリー・ル・ペン氏は極右の泡沫候補扱いであったが、状況は一変している。

 ドイツとフランスというEUの中核国で政治基盤が大きく揺らいでいる。EU崩壊のリスクは、イギリスへの対応ではない。イギリスがどうなろうと、EUにとっては徐々に過去の話になるだろう。問題はどのような移民・難民への政策を作っていくか。来年のドイツの首相選、フランスの大統領選の結果によってはEUの屋台骨が大きく崩れる可能性もある。EU崩壊は内部から起きる。そのリスクは消えていない。(おわり)
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