国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2016-08-02 15:49

ヘリマネ論議にソロス氏の影

田村 秀男  ジャーナリスト
 日本を舞台に、カネをヘリコプターから大量にばらまけば、景気が良くなるという「ヘリコプターマネー」論議が活発になっているが、そこには著名投資家のジョージ・ソロス氏の影がちらついている。ソロス氏は英国のアデア・ターナー前金融サービス庁(FSA)長官を通じて、ヘリマネ・キャンペーンを展開している。ターナー氏はイングランド銀行総裁候補になった英金融界の実力者である。2013年4月にソロス・ファンド出資のシンクタンク「新経済思考研究所」ロンドン事務所上級研究員に迎え入れられると、すぐにOPMF(Overt Permanent Money Finance=中央銀行による公然恒久財政ファイナンス)と呼ばれる独自のヘリマネ理論を提唱した。中央銀行が保有する国債を無利子の恒久国債に換えることで、国債を事実上償却し、政府は債務に制約されずに財政出動できるようにする財政・金融一体化案だ。

 ソロス氏とターナー氏は安倍晋三首相に近い日本の要人、経済学者ともコンタクトして、盛んにヘリマネ政策導入の必要性を説き付けている。そんな雰囲気の中、ベン・バーナンキ前米連邦準備制度理事会(FRB)議長が7月12日に安倍晋三首相に招かれた。バーナンキ氏はヘリマネ政策を最初に提起した故ミルトン・フリードマン教授の信奉者であり、あだ名は「ヘリコプター・ベン」。バーナンキ氏は安倍首相との会談で、「ヘリマネ」という言葉を直接引用しなかったものの、財政出動の必要性を認めると同時に、「金融政策の手段はいろいろと存在する」と語ったという。

 安倍首相の信頼の厚い本田悦朗前内閣官房参与(現駐スイス大使)は早くからヘリマネに関心を持ち、数カ月前にバーナンキ氏に会って安倍首相に会うよう勧めていた。バーナンキ議長の来日前には首相に対して、財政と金融政策の組み合わせによる財政出動に踏み切るよう、提言していた。本田氏はあからさまなヘリマネ策を取らなくても、異次元緩和を強化すると同時に財政をふかせばヘリマネと同様の効果が出せるという。いわばCMF(Covert Money Finance=中央銀行による非公然財政ファイナンス)で、現行の枠組みを活用するわけだ。

 こうみると、ターナー、バーナンキ両氏の理論は本田氏ら首相の経済指南役にかなり強力な影響力を及ぼしていることがうかがえる。公然あるいは非公然、恒久あるいは限定的かはともかく、財政と金融緩和の両輪を回すことを基本にした日本版ヘリマネ策導入の議論は今後、秋の大型補正予算、さらに来年度予算編成のプロセスの中で盛り上がるだろう。その間、投機家ソロス氏が円相場や日本株でどんな出方をするかも気になるところだが、要は政府・日銀が粛々と脱デフレ、経済再生に向け、最も有効な政策で足並みをそろえることが肝心だ。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム