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2007-03-02 14:39

「それボク」の提起するもの-佐島氏らにやや異議あり

伊奈  久喜  新聞記者
 映画「それでもボクはやっていない」を批判する投稿を本欄で2本読んだ。早速、それを見てみた。現在の日本の刑事裁判に対する周防監督の疑念が率直に伝わってきた。したがって筆者は前の2本の投稿者とはやや違う感想を持ったが、本欄は映画評をめぐって意見を戦わす場ではない。投稿者たちもこの映画の対外イメージへの影響に議論を広げている。特に日米地位協定をめぐってしばしば議論になる日本の警察、検察の捜査ぶりに関連づけて考えたい。

 幸いにも警察、検察に捜査された経験がないが、10年ほど前、ある事故に関連して都内の警察署で話を聞かれ、調書をとられたことがある。警察官の質問に答え、それを書き留めた警察官が文章をまとめ、読み聞かせ、異存がなければ署名し、母印を押せという。読み聞かされただけではわからないから、文章そのものを読ませてほしいというと、警察官は意外そうな顔をして、それを手渡す。もし自分が容疑者なら、警察官の心証を考えて、そんなまねはできなかったろう。しかし調書の文章は、映画にもあるように、あたかも、自分からしゃべったように書いてある。耳で聞くだけでなく、自分の目で読ませろというのは当然である。

 だが、映画をみる限り、おそらくいまも10年前と変わらぬ現実があるのだろう。日米地位協定に関連して米側が神経をとがらせるのは、このような取り調べの実態なのだろう。一方、日本側が問題にするのは、容疑者とされた米軍兵士の身柄が起訴されるまで日本側に引き渡されない点である。

 殺人、強姦などの凶悪犯罪の場合には例外扱いされる場合もあるが、それは例外である。日本の警察が身柄をとれない点には警察関係者だけでなく、沖縄の新聞なども強い不満を示す。しかしこれも、警察による逮捕が本来は捜査のための手段であるにもかかわらず、事実上の処罰になっている日本の現実を反映している。多くの日本人はそれに疑問を感じなくなっている。警察はそれを利用して自白を引き出そうとする。米側が不安に思い、周防映画が告発しているのも、この点である。無論、映画が対象を痴漢冤罪とした点には議論もあるだろう。しかし、それが多いのも現実であるのも確かなのだから、それを批判するのは自由だが、筆者はそれには加わらない。対外イメージへの影響を気にする議論も理解はできるが、周防映画がいい加減な取材に基づくのなら別だが、そうでなければ、これが日本の現実と考えるほかない。むしろ、これを契機に日本の警察の捜査や刑事裁判の近代化が進む材料になれば、と思う。

 ただし、大阪での警察取材の経験のある仲間によれば、捜査の近代化などと考える筆者のような意見は、かの地では、特に暴力団関係の事件捜査では現実的ではないらしい。そんなきれいごとでは捜査ができないという。それもまた日本の現実なのだろう。だからこそ、周防映画には意味がある。周防映画は裁判官にも批判の目を向けるが、この点は極めて貴重である。日本のメディアは、審理にあたった裁判官と同量の捜査に関する事実関係をめぐる情報を持たないという理由で、判決批判、裁判官批判はあまりしないからだ。
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