国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2015-12-07 17:45

(連載1)「沖縄・辺野古代執行訴訟」の本質

加藤 成一  元弁護士
 米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設をめぐり、翁長沖縄県知事による辺野古埋立承認取り消しに対し、国がその撤回を求めた。国と沖縄県との間の「沖縄・辺野古代執行訴訟」は、12月2日福岡高裁那覇支部で第一回口頭弁論が行われた。同訴訟において翁長知事は、仲井眞前知事による埋立承認には、「県内移設の必要性がない」「環境破壊がある」などの法律上の瑕疵(欠陥)があり、さらに「地方自治権を侵害し違憲である」などと主張している。

 しかし、埋立承認取り消しの要件である「瑕疵」の存在は、取り消しをした翁長知事側に法律上の立証責任がある。翁長知事は、「瑕疵」の存在は、同知事が設置した「検証委員会」の検証の結果判明したなどと言っている。しかし、「検証委員会」において、委員の人選が真に公正中立であったのかどうか、埋立承認手続きを担当した県職員らからの経過報告や意見などを十分に確認し、一切の先入観なく客観的合理的に評価し判断したのかどうか、検証結果につき政治的要素が皆無であったのかどうか、等につき疑問がある。最初から、結論ありきの「検証」であった可能性も否定し切れないのではないか。

 さらに、翁長知事は盛んに「沖縄の民意」を強調するが、国の安全保障については、限られた地域における「民意」だけではなく、日本国民全体の「民意」も重要であろう。また、同知事は、「いかなる手段を使ってでも辺野古移設を阻止する」と公言するが、普天間基地の危険性除去について、辺野古移設以外の対案や解決策は一切提示せず、絶対反対を叫ぶだけである。辺野古移設なしでは、普天間基地の返還が極めて困難な現実を考えると、同知事の行動は、基地負担の軽減を求める沖縄県民の利益にも結果的に反するもの、と言えよう。

 ところで、翁長知事が埋立承認の「瑕疵」として主張している「県内移設の必要性がない」との点は、明らかに国の権限を侵し、地方自治体の権限を越えるものと言えよう。なぜなら、今回の辺野古移設のような、日米安保条約に基づく米軍基地設置の必要性や設置場所の選定等は、米軍との関係や戦略上、地政学上の必要性・合理性・合目的性など、日本政府による安全保障上の高度な政治判断・政策判断を必要とし、まさに「砂川最高裁大法廷判決」(最大判昭和34・12・16刑集13-13-3225)の言う、裁判所の司法審査の対象外である「国の統治行為」に属する、と考えられるからである。国には、外国の侵略から国土と国民を守る安全保障上の義務と責任があるが、地方自治体の知事や市長は、安全保障上の責任を負うことはできないのである。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム