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2015-11-19 14:01

テロ対策の困難性:“敵・味方”を想定しない“近代人権思想”

倉西 雅子  政治学者
 近代人権思想が侵害者に対して脆弱性を内包していることは、11月16日の投稿で指摘しましたが、もう一つ、脆弱性があるとしますと、近代人権思想は、敵味方の関係を想定していないことです。実際には、人類社会は、誰もが日常的に経験する、あるいは、見聞きするように、様々な敵味方の関係に満ちているにも拘わらず…。

 敵味方の関係の中で最も切実となるのは、戦争など、“敵”に属する相手の命を奪うことも許されてきた分野における対立関係です。今月13日、パリで発生した一般市民を狙った無差別テロ事件に直面したオランド大統領は、このテロ行為を“戦争”と表現した上で、非常事態宣言を発しました。凄惨なテロの背景には、中東におけるフランス軍の空爆参加に対するISILの報復との見方もあり、イスラム過激派集団が、フランスをはじめ、シリア周辺でISILと闘っている欧米諸国を“敵”と認定していることは確かなことです。そして、過激派集団は、相互的な人権思想が欠如しているからこそ、宗教的、あるいは、思想的な信念に基づいて“敵”を殲滅する、あるいは、皆殺しにしても許されると考えているのです。

 一方、近代人権思想では、それでもなおも、普遍性の名の下において全ての人の基本権や自由を保護しようとしますので、敵と味方を区別することができません。このため、敵からの攻撃には無防備である上に、“敵”の認定には、自らの信念において苦しい葛藤を伴わざるを得ません。“敵”として取り締まろうとすれば、人権侵害の自責の念のみならず、差別や非人道的行為とする批判をも受けかねない一方で、自らの信念に従えば、無辜の人々を見殺しにすることになるからです。しかも、犯罪者とは違い、“敵”には、“異なる人々”ではあっても普通の人々も含まれています(もっとも、戦時にあっては、敵国の国民は、敵性国民として扱われる…)。

 現代の人権主義者の人々は、敵味方の関係の存在を認める人々に対しては、差別主義者のレッテルを貼って容易に“敵”と認定し、あからさまに攻撃しますが、より一般的な政治、宗教、思想、民族等の違いを原因とする敵味方の関係から生じる敵対行為やテロの危険性については、有効な対策を示そうとはしません。こうした脆弱性や非相互性の問題こそ、将来に向けてより安全な国際秩序を築くに当たり、理想に徹した建前論を排し、国際社会において正面から議論すべき課題ではないかと思うのです。
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