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2015-10-24 01:17

(連載2)軽減税率論議に仕掛けられた財務省のわな

田村 秀男  ジャーナリスト
 財務官僚のもう一つの殺し文句は、軽減税率品目によって決まる消費税減収である。財務省は消費税率を2%軽減する、つまり税率8%のまま据え置く対象品目を飲食料品にした場合、酒類を除外した場合1兆3,200億円の減収になるとの試算を示している。自公両党や民主党議員の大多数は社会保障財源としての消費税を当て込んでいることから、軽減税率対象品目の拡大には及び腰になる。こうして、軽減税率論議は結局、対象品目を最小限に絞り込むことで収拾され、あとは予定通りの増税を安倍内閣が実行するというシナリオが目に見えるようだ。

 その間、7~9月期のGDP速報値がゼロまたはマイナス成長を告げようと、企業や消費者の目はもっぱら軽減税率と予定通りの増税に向けられる。14年度に続き、2四半期連続のマイナスの成長率になれば「アベノミクスの失敗だ」と野党や一部メディアは騒ぎ立てるだろう。真相はまさしく消費税不況なのだが、8%への税率引き上げを決めたのは前政権の民主党だとしても、実行したのが現政権だから、安倍内閣も消費税増税が元凶だとは言いづらい。実のところ、8%増税の実行について、「増税しても、金融の異次元緩和で成長は続く」という黒田東彦日銀総裁の助言に従ったことを悔やむ安倍首相としても、これまで通り、「景気回復基調に変わりない」と言い張るしかない。黒田氏が財務官僚OBであることを勘案しても、財務官僚による官邸の誘導はある意味、見事というしかないが、それは国家を自滅させる悪魔の呪縛である。

 国家の大局を財政の足し算、引き算に歪曲化してしまう財務官僚の恐ろしさを安倍首相や菅義偉官房長官らが気付き始めていることは、筆者の耳にも伝わってくる。軽減税率論議のようにやはりわなにはまりかねない情勢をどう打開するか、その実行プログラムが今後問われる。

 プログラムとは、安倍首相が自民党総裁に再選された9月24日に打ち出した「アベノミクス第2ステージ」の目標、名目GDP600兆円(14年度は490兆円)である。インフレ率が2%なら、名目成長率3%の達成は無理がない。15年度を起点に平均名目3%の成長を維持すれば、600兆円には22年度に到達する。緊縮財政による財政均衡一点張りのこれまでの国家経済政策基本路線を廃棄し、経済のパイを大きくすることで財政健全化と社会保障財源を確保する路線にシフトする可能性を秘めている。安倍政権はこの際、消費税再増税を中止して、600兆円達成に全力を注ぐべきだ。(おわり)
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