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2015-09-04 06:27

習は威嚇の前に自分の頭のハエを追え

杉浦 正章  政治評論家
 バブルの崩壊途上で経済が「火の車」だというのに、「偉い偉い。強い強い」と褒めてあげたいような軍事パレードだった。パレードは経済的に追い詰められた中国国家主席・習近平が自らの存在感を誇示し、共産党政権の正統性を強調。口で「覇権は唱えない」と言いながら、ボディランゲージで臆面もなく覇権を唱えるものであった。まるで閲兵の車に乗った習の姿は昔ニュース映画で見た、ヒットラーの軍事パレードを想起させるものでもあった。1党独裁国家というのはこういうものかと改めて思った。そしてパレードは日米同盟をけん制し、台湾総統選挙で反中の民進党の躍進を許さない姿勢を露呈させた。まるで時代錯誤の武力の誇示であった。毛沢東は「米帝国主義は張り子の虎」と発言したが、パレードのけばけばしさはかえって「ペーパー・ドラゴン」そのものを感じさせるものであった。パレードにおける習の演説は、抗日戦の勝利には言及したが、現在の日本批判をしなかった。また兵力を「30万人削減する」と一見平和志向であるかのように見せた。しかし、30万人といっても総兵力230万のうちの30万であるうえに、削減した人件費を装備の近代化に回すのだから、中国軍は強化される。「平和」は見せかけに過ぎない。加えて記念レセプションでの演説だ。時事電によると、日本を名指しこそしなかったが「歴史は人民の心の中に書かれており、歴史の抹殺は許されないし、抹殺もできない」「歴史を忘れることは裏切りを意味する」など、明らかに首相・安倍晋三を意識した言葉を繰り返している。本音が出た感じである。

 この言葉は、習にそのままお返ししたい。「抗日戦勝利70周年」と銘打ったパレードの「歴史的正統性」に疑問が残るからだ。「抗日戦勝利」と聞いて以来、筆者はおかしいと主張してきた。習こそが歴史をねじ曲げているからだ。日本と戦ったのは蒋介石の国民党軍であり、共産軍は大戦中日本軍との戦闘を避けて逃げまくっていたのが実態だ。戦後の各種終戦協定には中国共産党の名前は出てこない。敗北したのは国民党政権に対してであり、史実と異なり歴史を歪曲するものに他ならない。要するに習は、日本が尖閣諸島を国有化したのを見て「しめた」と思ったに違いない。これで中国国民を統一できると膝を打ったのだ。そして就任以来尖閣に公船を派遣したり、防空識別圏を設定したり、レーダーを日本艦船に照射させたりして、国民の関心を「反日」に向けた。就任以来反日カードを切り続け、そしてその集大成として「反日パレード」を挙行したのである。70年も過ぎた今思い出したかのように、誰が見てもあまりにも過剰すぎる「反日宣伝」の場を作ったのである。中国国民の目を日本に向けて、共産党政権の失政を覆い隠し、自らの地位を確保しようとしたのである。

 また9月の訪米に向けて対米けん制の意味もある。大陸間弾道弾や、空母キラーのミサイルを誇示し、「どうだ」とどう喝する姿だ。日本に対しては水陸両用車を見せ、尖閣の占拠など訳はないと威嚇する。しかし軍事専門家の多くが「兵器はコピーが多く、実際に機能するか疑問を持つ」と指摘する。素人でも「真似だ」と分かったのは、無人機のパレードだ。中に米国ジェネラル・アトミックス社製の無人航空機「プレデターRQ-1」そっくりのものまで登場した。偽のルイビトンと言い、臆面もなく真似するのは、国民性なのであろうか。しかし国際社会においても、邪道というものがある。人間関係においても邪道をゆく者は必ず天罰が下る。その天罰が下りつつあるのがバブルの崩壊である。株価は日本のバブルの時と同様に乱高下を繰り返しながら、次第に奈落の底に落ち込んで行くのだ。先週だけでも中国人民銀行は日本円にしてなんと9兆5千億円というとてつもない資金を市場に投入して、株価を維持しようとしているが、まるで業病末期の患者に輸血に次ぐ輸血を繰り返しているような状況だ。軍事力で米国をけん制するどころか、オバマに資金流出に直結する利上げを思いとどまるように懇願しなければならない場面だ。

 さらに加えれば、パレードは来年1月16日に投開票が行なわれる台湾総統選挙へのけん制だ。台湾の政情は反中路線を取る最大野党「民進党」が躍進し、政権奪取の勢いだ。パレードの戦闘機やミサイルは「いつでも台湾海峡を越えられるぞ」という意味を持つ。こうして軍事力での示威行動を取りながら、習近平と朴槿恵の会談では日中韓首脳会談を「10月か11月上旬を含む時期に行う」方向を打ち出した。まさに武力で威圧し、猫なで声で「会談しよう」というわけだ。しかし軍事パレードくらいで、安倍が気おされると思うのなら甘い。アメリカの軍事費は中国の3倍の6100億ドル。これに自衛隊が加わる日米同盟では、世界有数の抑止力が構成されることを習は肝に銘ずるべきだ。時代錯誤の軍事パレードは軍事のプロから見れば噴飯物でもあるという。茶番と心得るべきだ。それより習は今そこに近づいた経済危機への対処、これに伴う暴動頻発の国内情勢の流動化に専念することが、指導者としての役割と心得るべきだ。威嚇している暇があったら、自分の頭のハエを追えと言いたい。それにつけても安保法制の早期実現はますます重要になってきた。反対政党やデモ隊は中国軍事パレードの「意味」を悟るべきだ。
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