国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2015-07-07 18:26

ギリシャは「衆愚政治」の歴史を繰り返す?

倉西 雅子  政治学者
 一昨日までは、世論調査結果などから、ギリシャの国民投票では、国民が冷静さを取り戻し、緊縮容認派が多数を占めるとの予測が大半を占めておりました。緊縮容認派が勝利した場合、チプラス首相退陣も取り沙汰されておりましたので、本日は、古代アテネで行われた独裁者追放の国民投票制度である「陶片追放」に因んで記事を書く予定でした。しかしながら、朝起きてみますと結果は逆であり、急遽、「陶片追放」からアテネ滅亡の原因ともなった「衆愚政治」に変えることにしました。

 投票結果は、60%を越える高率で反緊縮派に支持が集まり、接戦どころか、EU案に対する反対票が過半数を大きく超えておりました。ギリシャの民意はチプラス首相の冒険主義的な手法に賛意を示したことになりますが、国民の多くが、ユーロ導入から今日に至るまでの経緯を理解しているのか、疑問なところです。何故ならば、ユーロ誕生当時、ギリシャこそ、ユーロから最大のメリットを受ける国の一つに数えられていたからです。その理由は、ギリシャ通貨ドラクマは、当時、極めて「弱い通貨」であったため、海外からの投資は停滞し、国民もまた、インフレ圧力に苦しめられていたからです。「強い通貨」を手に入れれば、インフレ率の低下からギリシャ経済も安定し、為替市場での取引コストやカントリー・リスクの消滅…も、国債発行による資金調達を含めて、海外からの投資増加を促すものと期待されていたのです。後に発覚して騒動となりましたが、ギリシャ政府が、粉飾決済までしてユーロ導入を実現した理由は、これらのメリットにあります。

 ところが、実際にユーロを導入すると、ギリシャは、ユーロ建ての国債発行のメリットのみを享受し、放漫財政の維持に費やすのみで、経済成長に振り向けることも、慢性的な財政赤字体質にメスを入れることも怠りました。この結果、最大のユーロ・メリット国は、最大のユーロ・リスク国に転じてしまったのです。ユーロからの恩恵を忘れ、今では、ユーロ離脱も辞さない構えです。

 国民投票を通して、チプラス首相は、EUという外部の圧迫者と戦う英雄に祭り上げられ、ギリシャ国民も一緒になってEUを敵視し、国民投票は、あたかもEUとの政治闘争の観を呈してしまいました。EUに憤慨する国民もまた、EUの緊縮案にNOを突きつけたのですが、果たしてこの判断、賢明であったのでしょうか?(もっとも、ギリシャ国民が、EUや国際経済に悪影響を与えないために、自らユーロ圏から離脱し、一から経済・財政を立て直す覚悟で反緊縮策に賛成票を投じたのであれば、賢明と言えるかもしれない…)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム