国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2015-06-21 02:10

(連載5)安保法制:不思議の国の潮目を読む

三浦 瑠麗  国際政治学者
 憲法学的安保論に対する懸念の最後は、あらゆる問題を憲法論・法律論にしてしまうということです。法律論では、解釈の安定性が大事ですから、静的な適用要件を予め決めておきたいという要請が働きます。動的に事態が進展する安全保障の世界において、この発想はなかなか曲者です。現場で役に立つ基準を作りたいのであれば、法的な要件を事細かく定めるのではなく、原則をしっかり決めておく必要があるのです。立法府と行政府の関係にも関わってくるけれど、安全保障分野には行政の裁量さえ認めないということでは現実的な政策遂行は望めません。
 
 法律というものは、実態からかけ離れすぎては効果を失うのです。人間性に反するルールは、結局だれも守らなくなり、ルールそのものの信頼性を損なうからです。仮に、日米の部隊が公海上で共同警戒活動を行っていて米艦が攻撃を受け、更なる犠牲が迫っているとしましょう。自衛隊の護衛艦が敵艦に反撃できる態勢にあるのに集団的自衛権を行使しないとすればどうでしょうか。
 
 仲間を見捨てることは、軍人のモラールに反するでしょうし、人間性に反するということもできるでしょう。それでも反撃すべきでないとするならば、護衛艦の艦長に超法規的な判断を迫っているのと同じです。難しい判断を現場に押し付けることは、法治国家では絶対にやってはいけないことです。実務家が法律を尊重するためには、法律家は現実の世界に敏感でなければいけないのです。その両輪があってはじめて、立憲主義が成り立ち、法治国家が成り立つのです。
 
 蛇足ながら付け加えると、日本の防衛関係者は立憲主義や法治主義を非常に重視しています。集団的自衛権の行使を前提とした訓練は、図上演習さえ行ってきませんでした。自衛隊の一部に法務の専門家がいることは重要だけれど、すべての部隊長がガラス細工の法解釈を絶えず気にしていては、実力組織は維持できません。(つづく)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム