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2015-06-19 10:50

(連載3)安保法制:不思議の国の潮目を読む

三浦 瑠麗  国際政治学者
 一般に、憲法学の立場からされる安全保障の議論には三つほど違和感があります。一つは、日進月歩の安全保障の現実を十分に踏まえていないこと。一つは、同盟を機能させる現実を十分に踏まえていないこと。最後の一つは、憲法と法律の空間を無用に拡大することです。もちろん、憲法学者の意見が一様なわけもなく、大変尊敬している先生もいらっしゃる中での少々乱暴な一般化であることは、あらかじめ断っておく必要があるでしょうが。
  
 安全保障の世界は、冷戦後の四半世紀の間に大きく変化しました。精密誘導兵器が本格的に実戦投入されたのは90年代初頭の湾岸戦争です。そこから、社会全体の情報化に輪をかけて軍の情報化が加速します。いわゆる軍事革命です。現代戦の優劣は指揮・情報系統の能力で決まってくるため、一定の同盟関係にある軍隊は個別に行動しても戦力となりにくく、戦場では足手まどいとなるか、場合によっては危険ですらあります。同盟国の軍隊の一体化は不可逆的な技術上の要請なのです。殆どの国が、自国の安全保障を一国で完結できなくなったというのは、予算上の制約を指して言う場合もあるけれど、第一義的には、文字どおりそうなのです。それに対し、予算の専門家や古い安全保障認識に頼っている人々は、船の隻数など数の積み上げのみで軍事力を理解しようとしています。
  
 過去四半世紀の安全保障のもうひとつの変化は、戦場があいまいとなったことです。冷戦中は、前線が明確に存在しました。朝鮮半島であれば北緯38度線がそれであり、欧州であれば、ベルリンの壁がそうでした。核戦争以外では、前線と後方が安定的に分離しており、危険を伴う戦場を特定できたのです。冷戦のタガが外れて地域紛争が勃発し、独裁政権が倒れました。イラク戦争をはじめとする愚かな戦争もありました。結果として生じたのは、秩序の崩壊であり、地球規模でのテロリズムの拡散です。宇宙の戦場化も着々と進行しており、いまや最も激しい戦闘が行われているのではサイバー空間です。
 
 安保法制に関する憲法学者の懸念の大きなものとして、外国の軍隊を守るのか、自衛でなくて他衛を行うのかというものがあります。また、武力行使の明確な歯止めとして、地理的制約を求める意見が根強い。申し訳ないけれど、それは、現代戦の現実を踏まえていないのです。ある意味、憲法学者が懸念するとおりなのだけれど、自衛と他衛は分けられなくなってしまったし、脅威は地理的に定義することも難しくなったのです。その厳密な理解なしに、カジュアルな物言いとしての「地球の裏側」まで行くという雑な議論がまかり通ってしまうのは、いったいなぜなのか。この辺りにこそ、法律家が重視する厳密さが発揮されるべきなのです。(つづく)
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