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2015-04-27 10:38

(連載2)アハメド『世界恐慌』を読む

池尾 愛子  早稲田大学教授
 米連邦準備制度内の資料も参考にされた。アメリカでは中央銀行にあたる連邦準備制度が1913年にようやく設立されていた。それゆえ、ウォール街があるニューヨークの銀行家たちやニューヨーク連銀関係者の方が、ワシントンDCに集う連邦準備制度理事会や同議長より、金融に関する経験が豊かで多くの知識を持っていると、少なくとも前者たちは考えていた。ニューヨーク連銀で「心理相場」の鎮静化のために金利引上げを「決定」しても、ワシントンDCの連邦準備制度理事会で拒否されることがあった点は興味深い。

 本書は特に、ヨーロッパでの危機の萌芽の過程を説得するように伝えてくれる。それには第一次大戦の敗戦国ドイツに課された巨額の賠償金が関係し、その削減交渉の効果は限定的なものであった。1924年のドーズ・プランでは、実は賠償金が減額されなかったことが明確に述べられている。1929年2月、ドイツの景気が後退して、2度目の賠償金削減交渉が始まり、妥結したのが5月であった。「危機は2年ほど先延ばしされたかもしれないが、もっと深刻な危機が確実に襲ってくるであろう」と、シャハト総裁は私的にではあるが正確に予想していた。シャハト総裁は賠償金削減の国際交渉に臨んで駆け引きを行っていたようにみえるが、ドイツ政府と決裂し、一旦は職を退いた。

 1931年、オーストリアの銀行クレディト・アンシュタルトの経営問題が表面化した後、ヨーロッパの政治状況が危機を煽っていく様子が克明に描き出された。危機は大西洋の両岸で広がっていく。1932年、「大不況」一色になったアメリカ大統領選中、有権者には耳触りがよいが経済学的に矛盾した発言が飛び出していた。そして選挙から就任式までの空白期間に、新たな銀行破綻の波がうねっていく。1933年3月、ルーズヴェルト大統領は就任式の日から銀行休業日を実施して、パニック対策に乗り出した。

 1933年、独ナチス政権の下、3年ぶりにシャハトはライヒスバンク総裁に復帰し、為替レートは高めのままで、手の込んだ輸入規制で事態に対処する「シャハト式」を敷いた。そのため、アウトバーンなどの輝かしい成果とは裏腹に、ドイツ経済は常に物資不足に悩まされることになった。フランスは最後まで金本位制を維持したが、1928年に設定したフランレートが他国通貨に対して割安になっていて、輸出を伸ばし続けられたと明確に指摘されている。協力するよりも協力しないことを選んだ政治状況が経済危機を悪化させたことは確かなようだ。(おわり)
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