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2015-04-08 06:29

原発再稼働に「朝三暮四」の知恵を

杉浦 正章  政治評論家
 「列子」のことわざに「朝三暮四」がある。「朝に三つ、夕方に四つとちの実をやろう」と言うと、猿たちは怒り、「それなら朝に四つ、夕方に三つにしよう」と言うと、猿は大喜びしたという話だが、なにやら似たような話になってきた。ベースロード電源で自民党は原発比率を2割程度と打ち出したが、一方、政府は2030年の電源構成(エネルギーミックス)で再生可能エネルギーの方が20%前半で原発を上回る、と宣伝し始めた。「ふーん、なるほど」と通常の猿は納得するが、筆者のようにちょっと利口な猿は「まてよ」と考える。原発は2割だが、再生可能エネルギーには水力と地熱が入っており、これはベースロード電源も構成している。その10%を差し引けば太陽・風力などのエネルギーは10%そこそこで原発の半分だ。しかし反原発派のノータリン猿は「うーん、俺たちの方が多いから偉い」と思ってしまうのだ。錯覚を起こさせるうまい宣伝工作だ。政府には「知恵者がいるのう」ということだ。統一地方選を考えたのかのう。朝日猿は他社に遅れて4月8日朝刊トップで、これに乗っている。

 もっと下手な朝三暮四は、自民党がベースロード電源を6割として、具体的な原発の比率を言わなかったことだ。計算すれば石炭が3割で水力・地熱が1割だから差し引けば2割。ちょっと小利口なら猿でも分かる数字だが、一般の猿には分からないようにした。これも選挙対策かのう。だいたい「%」を使わず「割」としたところが、アバウトで物事を丸めようとする自民党らしい。とはいうものの、ようやく原発再稼働に向けて具体的な動きが出てきたことはご同慶の至りだ。もっと早ければもっと良かったがのう。ここから真面目調にトーンを変えるが、なぜここに来て動きが出たかと言えば、年初から「地球温暖化でこのままなら安倍が大恥をかく」と筆者が警鐘を鳴らしてきたことに、ようやく政権が対応し始めたのだ。政府は年末にパリで開催される国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の「第21回締約国会議(COP21)」に向けて、原発再稼働を前提に温室効果ガス削減計画をまとめなければならない。それに先立つ6月のサミットでも削減目標提示を求められる。原発政策はもう待ったなしの段階に入ったのだ。既に紛れもなく「人類の死」に直面している地球温暖化を意識して、EUは温室効果ガスを40%削減、米国は26~28%、ロシアは25~30%と野心的な目標を決めており、安倍も原発再稼働なくして、これらの諸国から蔑視されない数字を打ち出すことは不可能なのだ。

 そこで自民党が経産省の下工作に乗って2割の数字を出したことが何を物語るかと言えば、紛れもなく原発回帰の宣言である。もともと政府は原発を重要なるベースロード電源と位置づけているが、これからは具体的に再稼働が動き出すのだ。筆者は既に1月の段階で「ベストミックスは原発25%が適切」と主張してきたが、結局将来的には原発は20%台半ばとならざるを得まい。そのためには原発の耐久期限40年をさらに延長しなければならないだろう。すぐに忘れるから何でも反対党に堕しつつある民主党に忠告しておくが、同党は政権時代に原子炉等規制法を改正し、運転期間を40年とする方針を閣議決定する際、「事業者が環境相に20年を上限に延長期間を申請し、認可されれば1回に限り運転の延長が認められる」という例外規定を決定している。この場合、原発の寿命は最長60年になる。これだけは反対できまい。

 さらに安倍は慎重に言及を避けているが将来的には原発の建て替えや新増設も視野に入ってこざるを得ないだろう。日本が逡巡している間に世界は今原発ブームにわいている。発展途上国にも原発建造の波は押しよせており、中国に至っては運転中が22基。現在建設中がなんと27基で、全部海岸寄りに作られている。日本の安全ノウハウなしで建設が進み、いったん事故が起きれば偏西風に乗って放射能の嵐が日本に降り注ぐ仕組みとなっている。これは中国の原発実験で証明済みだ。韓国や中国は輸出にも躍起になっているが、安全性は度外視で、このままでは危険極まりない原発が世界にまん延してしまう。このところ安倍の原発セールスは目立たないが、今こそ輸出に全力を挙げるときだ。当然のことながら、再稼働と同時に電気料金も順次引き下げられなければならない。震災前と比較して現在一般家庭が2割、企業が3割の値上げに苦しんでいる。将来電力の自由化で利用者が電源を選ぶ時代が来たとしても、まだまだ高くつく再生可能エネルギーを買う家庭はいまい。安くて安全な原発電源に普通の家庭は飛びつくと予言しておく。
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