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2007-01-08 08:02

対露ビジネスには警戒心を持って臨むべき

村上正泰  日本国際フォーラム主任研究員
 伊藤憲一執行世話人が1月2日付の投稿「ポリトコフスカヤ、リトビネンコ連続暗殺事件に思う」で明快に指摘されているロシア国家の本質は、決して我々と無縁の世界の話ではない。石油・天然ガス開発事業の「サハリン2」をめぐって我々自身が直面する問題となっているのである。「サハリン2」はこれまでロイヤル・ダッチ・シェルと三井物産、三菱商事の3社により工事の8割を完成させていた。しかしながら、突然、環境問題を理由にロシア当局が事業停止命令を出した。そして、ロシアの国営天然ガス独占企業体であるガスプロムの事業参入を許すこととなり、3社から事業株式の過半の譲渡を受けた同社に経営主導権を握られてしまったのである。

 ロシアにおいては、その歴史的な社会風土からして何らかの権威主義的な要素は避けがたいと言われるが、近代化や経済発展が順調に進展することを志向した開明的なものであればともかく、収奪を重ねて私利私欲を貪るだけの独裁体制に陥ってしまっては害あるのみである。「イワン雷帝にまで遡る歴史的産物としてのロシアの政治文化の問題」という伊藤執行世話人の指摘に即して考えてみると、「サハリン2」をめぐる「プーチン・シロビキ独裁」の現状は、雷帝がオプリチニキと呼ばれる親衛隊を組織して大貴族の世襲地を強制的に没収し、忠誠を誓う官僚に封地として配分することにより、地主官僚(ドヴォリャーネ)が実権を握る中でツァーによる専制支配が形成されていった歴史と何とも似ていることに驚かされる。もちろん大貴族の世襲地と外国資本によるエネルギー事業という違いはあるが、支配者が強権的手段を用いて権益を拡大し、それを自らの権力基盤のために振り向けるというやり方は何ひとつ変わっていないのである。

 にもかかわらず、今回の「サハリン2」をめぐる事態の推移に対して、当事者である我が国において非難の声が盛り上がってこないのは何ゆえであろうか。このままでは、ますますロシアに弄ばれるだけになりはしないだろうか。イギリスの「The Economist」誌においては、昨年12月16日号で「Don’t mess with Russia」と題する特集を組み、プーチン政権の傲慢さを痛烈に批判している。私が12月11日付の投稿でサミット参加国としてのロシアの異質性を指摘したように、この特集記事においても「G8の一員にふさわしくない」と論じられている。国際社会の眼はかくも厳しくなっているのである。

 我々は、最近流行の「BRICs」などという言葉に決して誑かされてはならない。この言葉は元々ゴールドマン・サックスが命名したものであるが、そもそもマーケットというものは、いわゆるポジション・トークが溢れるものであるし、必ずしも長期的な観点からの評価や政治的要素や歴史的背景までをも視野に入れた総合的な判断がなされているとは限らない。目先の利益だけで手を突っ込んでしまうと、痛い目に遭いかねないのである。これはマーケット全般に当てはまることであるが、とりわけロシアの現状を目の当たりにすると、ロシアを「BRICs」の一角として称賛することに如何なる意味があるのか甚だ疑問である。もちろん対露ビジネスはこれからも続くであろうし、それはそれで望ましく必要な面もあるけれども、その際には決して警戒心を怠るべきではないのである。そのことをしかと肝に銘じておかなければならない。
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