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2015-03-12 06:23

北岡発言は安倍の意向を反映している

杉浦 正章  政治評論家
 簡単にに言えば御用学者。もう少し良い言葉を使えば今をときめく御用学者。もっと良い言葉で言えばブレーンだが、安倍の意向を忖度(そんたく)しないで発言するだろうか。70年談話に関する有識者会議「21世紀構想懇談会」座長代理で国際大学長の北岡伸一が、「安倍首相に日本は侵略したと言ってほしい」と発言したといって、単純右翼やネトウヨが騒いでいる。「侵略でなくて、侵攻だ」と怒っているが、どうだろうか。終戦記念日に出す安倍談話に向けて、安倍が「侵略」だけは妥協する可能性があるから、世論の堀の深さを測っているというのが、実態ではないか。問題発言なら官房長官・菅義偉が即座に否定的見解を述べるが、「政府としてはコメントすべきではないと思う。議論を見守りたい」と述べているのも怪しい。

 「安倍談話」に関する安倍のポジションは「安倍内閣は、歴史認識については歴代の内閣の立場を全体として受け継いでいく」というものだ。しかし「全体として受け継ぐ」の表現から見ると「植民地支配と侵略」「痛切な反省」「心からのお詫び」のキーワード三点セットをそのまま受け継ぎたくないように受け取れる。とりわけ村山談話については、かねてから「安倍内閣としてそのまま継承しているわけではない」と述べている。社会党首相の出した談話など踏襲したくない気持ちは分かる。「侵略」については、中国はともかくとして、韓国には侵略などしていない。明治政府は頼まれて併合しただけだ。侵略したのは秀吉までで、談話でそこまでさかのぼる訳がない。そもそも、アジアは日本とタイ以外は米英仏蘭が先に侵略していたのであり、アメリカ領フィリピン、オランダ領インドネシア、イギリス領シンガポールと言う呼称があったのがその証拠だ。列強による植民地支配から開放した戦争の側面を忘れてはなるまい。しかし歴史的定義から見れば「侵攻」というより、中国と東南アジアに関しては、遅れてきた日本の「侵略」と言われても仕方があるまい。

 そこで、これまでの安倍のポジションを分析すると、戦後50年の村山談話に先立って自・社・さ3党は国会決議を行っている。安倍はこの決議に不満で本会議を欠席しているのだ。その理由は決議に「植民地支配」や「侵略的行為」の表現があったからだといわれている。その決議は安倍らの反対で「不戦」や「謝罪」には言及していない。だから社会党の首相・村山富市は国会決議では不十分だとして「村山談話」を出したのだ。その経緯を見れば安倍がそのまま継承したくない気持ちになるのは理解できる。そこで北岡がどういう立場にあるかといえば、安倍の信頼が最も強い学者である。 第2次安倍内閣で「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」座長を務め、集団的自衛権の行使容認では民間の論客として、反対派との論争を繰り返した。まさに安倍シンパのブレーンである。そのブレーンが最初に指摘したように、突然安倍を裏切って安倍を追い込むようなことをするだろうか。いや、決してしないだろう。安倍と綿密に意見調整しているか、少なくともその考えを忖度(そんたく)して発言しているのだ。

 発言を見ると「謝罪が中心に来るかどうかということがキーだというメディアに違和感を感ずる。あまりにゆきすぎた謝罪は国内の反韓、反中意識を高めて和解を難しくする」と、明らかに朝日新聞に真っ向から反対する姿勢だ。そのままの文言に消極的な安倍と全く共通している。その一方で「侵略」に関しては、「悪い戦争をして沢山の人を殺して、誠に申し訳ないということは国民の99%が言う。私は安倍首相に日本は侵略したと言って欲しい」と発言している。わざわざ根拠のない「99%」という数字を挙げたのは、安倍がそこまで降りてきている可能性があることを物語るものであろう。ただし、表現としては韓国も含めたものにするべきではあるまい。「併合」と「侵略」は分けた形にする必要があろう。安倍談話に関しては中国や韓国からしきりにけん制球が投げられ、米国も絡んで過去にないスポットライトが当たっている。しかし、例えば韓国の外務省報道官が「歴代内閣の歴史認識が両国関係発展の土台となってきた」と村山・小泉談話の継続を求めているが、何度謝っても次なる要求が出されるようでは「全く土台になっていない」ことになる。中国も「一外相」(菅義偉)の王毅が先頭に立って勇ましいが、習近平政権に国内向けに利用する邪心が目立つようでは、真の友好関係など構築できるわけがない。
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