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2015-03-06 06:46

韓国の対米・対日外交に「負」の影響

杉浦 正章  政治評論家
 韓国にとって踏んだり蹴ったりとはこのことだ。シャーマン発言を「日本えこひいきだ」とばかりに反発して、巻き返そうとしていた矢先の反米・反日・親北の活動家によるテロである。加えて「日本外務省のホームページで『価値観の共有』が削除された」とクレームを付けた途端に、価値観を共有できない事態の発生でもある。大統領・朴槿恵は2006年には地方選の遊説中、暴漢によって顔面を切りつけられ、60針を縫うけがを負ったが、米大使・マーク・リッパートは20針も上回る80針の大けがという因縁事件だ。容疑者キム・ギジョンはシャーマン発言との関係を否定しているが、否定しようがしまいが、発言によって激昂した韓国世論をチャンスと見た行動であることは変わりあるまい。米韓軍事演習の最中であり、朴は「米韓同盟に対する攻撃であり容認できない。徹底的に調査する」と発言したが、この発言はひょっとすると北朝鮮の影があると感じ取った発言とも受け取れる。容疑者は北朝鮮を8回も訪問している。今のところ単独犯だとされているが、米韓離反は北の思うつぼであり、朝鮮半島は何でもありの状況であると心の片隅に置いておいた方がよい。

 事件は、かつて駐日大使・ジョン・ルース・ライシャワーが統合失調症患者にナイフで大腿を刺され、重傷を負った事件とは異なる。同事件は、かえって日米関係深化に役立ったのであり、今回の事件は、これとは異なる性質を帯びている。米韓両国は急きょ高級事務レベルで事態を協議し、「米韓関係に悪影響を及ぼさないよう努力するとの認識で一致した」(韓国外務省報道官)が、これは当面短期の糊塗である。長期的には事件が韓国外交にマイナスの影響を及ぼすことは避けられない。まず第一に、韓国が中国と米国によって迫られている“踏絵”の構図への対応で、米国寄りの姿勢を迫られざるを得ないだろう。朴槿恵は「経済は中国、安保は米国」と使い分けてきたが、今後は甘くはあるまい。象徴的になっている「高高度防衛ミサイル(THAAD、サード)」の韓国配備問題も、一層米国に有利に作用するだろう。習近平のけん制を受けて態度が決まらない朴は、やがて厳しい決断を迫られる時が来るだろう。

 次ぎにシャーマン発言が「愛国的な感情が政治的に利用されている。政治家たちにとって、かつての敵をあしざまに言うことで、国民の歓心を買うことは簡単だが、そうした挑発は機能停止を招くだけだ」と、朴の執拗な歴史認識で国民を反日に誘導する姿勢にくさびを打った問題である。発言では韓国の「米国は歴史認識では韓国支持」という読みが甘かったことがいみじくも露呈された。国務省のハーフ副報道官が「特定の国と人を意識していない」と火消しに懸命だが、例によってマッチポンプだ。シャーマンほどの外交官が思いつきで発言するはずはない。おまけにシャーマンは発言前に韓国を訪問しており、優秀なリッパートから詳しく日韓関係の報告を受けていないはずはない。どう見ても日韓関係が好転しないのは、朴の慰安婦固執にあるとの判断に至っての発言なのだ。韓国はこの発言に対して総力を挙げて外交的な巻き返しを図ろうとする矢先の、テロ事件だ。韓国外交が出はなをくじかれたことは否めない。

 さらに日本に対しても韓国は、外務省がホームページから「我が国と、自由と民主主義、市場経済等の基本的価値を共有する」との表現を削除した問題を対日外交の重要テーマにする姿勢を見せていた。3月4日、日本政府の説明を要求して、外交攻勢をかけ始めたところに、この事件の発生であった。外務省は首相・安倍晋三の施政方針演説に沿って削除したのであり、安倍は産経のソウル支局長が在宅起訴されたいきさつを見て、言論の自由を重視する民主主義国家としての韓国の有り様を疑って外したのだ。ところが今回のテロ事件は、韓国が民主主義国家として成熟していないあかしになってしまったのだ。これも「基本的価値共有否定論」が正しいことになってしまった。やはり韓国外交の出はなをくじくことになったのだ。

 大国と小国との関係から言えば、韓国の事件は1891年(明治24年)に発生した大津事件を彷彿とさせる。ロシア帝国皇太子・ニコライに警察官・津田三蔵が突然斬りつけた暗殺未遂事件である。ただし皇太子の負傷に関しては、ロシア皇帝も皇太子も日本の迅速な処置や謝罪に対して寛容な態度を示し、日本がこの問題を無事解決できた理由の一つにロシアの友好的な姿勢があったことは疑いない。今回も米国は同様の寛大な態度で臨むことが予想されるが、縷々(るる)述べてきたように厳しい極東情勢の中で、韓国外交への負い目となったことは間違いない。韓国は様々な局面での譲歩を余儀なくされるだろう。日本政府は、「窮鼠」に噛まれないようにひたすら事態を静観すればよい。時々慰めたりすれば恩を売ることも出来る。しかし過度の譲歩は、すぐにつけ上がる国民性を考えてほどほどにすべきだ。
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