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2015-02-19 06:46

安保法制後の課題に情報機関創設の動き

杉浦 正章  政治評論家
 自民党内で対外情報機関創設への動きが加速している。政府も首相・安倍晋三と元防衛相で地方創生担当相の石破茂が基本的には前向きだ。設立の目標は2020年のオリンピックに間に合うよう2,3年以内を目指すべきであろう。しかし諜報員を採用して1から教育していてはテロ対策としては間に合わない。まず既にミニ情報機関として存在している内閣情報調査室を軸に、首相直属の機関に拡大することが望ましいが、問題は人だ。諜報員も警視庁や防衛省からかき集めるだけでなく、国力総動員型で機構を作る事が大切だ。現地在住の日本人は言うに及ばず、商社や企業社員、現地と政府開発援助(ODA)を通じて人脈が出来ている優秀な国際協力機構(JICA)関係者などをリクルートする必要がある。カネを出して情報源を確保することも肝要だ。そうすれば日本の国力から言っても遅ればせながらかなりの情報網を創設できるだろう。

 まず、同じ敗戦国なのになぜ日本だけ情報機関がなかったのかと考えざるを得ない。ドイツは1955年に第二次世界大戦中の対ソ情報機関であるゲーレン機関を基に連邦情報庁(BND)を設立。イタリアですら国防情報庁が1965年に創設され、現在はSISMIとして対外情報収集に当たっている。いずれも半世紀以上前に設立されているが、敗戦国なのに国内外から反対の声や圧力など生じていない。日本は先見の明があった吉田茂が1952年に内調を設立、これを土台にして日本版CIAを作ろうと考えていた。ところが当時は左傾化していた読売を先頭に、朝日、毎日が「戦前の情報統制の復活」とあらぬ方向に大反対して実現に至らなかった。ドイツ、イタリアとの相違は大陸国家で国家の安全保障に対する考えが島国日本とは根本的に異なることであろう。地続きで隣国と接しており、戦争、紛争は日常茶飯事の国々にとっては、情報組織で耳をそばだてることは国家の存立に不可欠な常識であるのだ。一方日本は地政学的に海洋という天然の要塞に守られて、元寇以来安全保障は神風が助けるという遺伝子が出来上がってしまっている人種が存在するのだ。絶対平和主義の公明党や野党が存立可能なのもそこに原因がある。

 そして、その天然の要塞だけでは国民を守れない時代が国際化の波とともに到来した。現在日本人の海外在住は150万人、海外への旅行者は年間1500万人に達するという時代だ。簡単に言えば国境線はなくなりつつあるのだ。その時代に即して安倍が集団的自衛権の行使で安保法制に取り組み、邦人救出での自衛隊派遣を検討するのは当然のことである。情報機関の創設も国際国家としての日本にとってまさに死活問題であるのだ。設立の動きは10人殺されたアルジェリア人質事件がきっかけとなっているが、今回のISIL(イスラム国)の2人殺害がその動きを一層勢いづけている。安倍は国会で「どの国もテロの脅威から逃れることができない。関係国や組織の内部情報を収集することが死活的に重要だ」と言明、創設に前向き姿勢だ。石破も「情報収集する組織をきちんとつくることに取り組むかどうかだ。早急に詰めないといけない」と述べている。

 自民党のインテリジェンス・秘密保全等検討プロジェクトチーム(座長・岩屋毅衆院議員)は近く独立した対外情報機関の設置問題の本格協議に入る。米CIAや英国のMI6の現状について有識者からヒアリングを行い、夏にはMI6などを視察し、秋にも提言をとりまとめる。これにより安保法制に次ぐ重要課題として情報機関の設置が待ったなしの課題となる方向だ。ここで見逃してはならないのがどの国の機関を手本にするかだが、警察出身でインテリジェンスのプロ中のプロ衆院議員・平沢勝栄が、世界の情報機関を調査した結果「ドイツのBNDが一番日本にマッチする」と述べている。BNDは職員数は7000人以上に達し、そのうち、約2000人が国外での諜報情報の収集に従事しているが、それだけの人員を当初から確保することはまず不可能だ。1000人規模がいいところだろうが、CIAやMI6とともにBND型も検討する必要がある。

 要員確保が最大の焦点になるが、警視庁公安や、防衛庁など情報活動のプロを移動させることがもちろん主軸となる。ここで考えるべきは「民活情報機関」だ。中曽根康弘は法律まで作って民間の資金を国家プロジェクトに活用したが、世界第3の経済大国である日本は、外交とは別に民間による人脈が世界中に形成されている。これを活用しない手はない。JICAにしても莫大(ばくだい)なODAの実施機関として、現地に人脈が出来上がっている。これを活用すべきであろう。現地に長く住んでいる日本人や、民間企業関係者からの情報提供も重要だ。もちろん現地の情報提供者を作ることも重要だ。いずれも資金もつぎ込む必要がある。日露戦争において諜報活動で活躍した陸軍大佐・明石元二郎はイギリスのスパイを抱き込んだり、当時の金額で100万円(今の価値では400億円以上)を工作資金として支給されて、ロシア革命の大きなきっかけを作り上げた。史上最大の諜報活動であった。古来、情報とはカネと人脈に他ならない。
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