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2007-01-04 09:42

連載投稿(2)石田梅岩や二宮尊徳に学ぶ

池尾 愛子  早稲田大学教授
 ところで、日本で公正な取引や経済倫理のルーツをたどれば、江戸時代の商家の家訓や石田梅岩の石門心学、二宮尊徳の報徳思想に遡ることになる。石田梅岩(1685-1744)は、士農工商という職分制度の下で商人の営利活動を正当化する一方で、商人どうしの競争がはげしいなかでも誠心と公正な商売が大切であると諭した。江戸末期に荒廃しかかった多くの農村を建て直した二宮尊徳(1787-1856)は、誠心誠意で民の信頼を得て、倹約(分度)と勤労の徳を植えつけ、率先して開墾事業に取り組み、さらには、公平さが保たれて正直者が馬鹿をみないように注意を払っていた。尊徳の実践倫理は報徳思想として弟子たちに受継がれ、さらに日本でビジネスが組織化されていくときにも起業家たちに柔軟に援用されてゆき、現代の経営リーダーたちの中にも影響を受けている人たちがかなりいるとされる。

 折しも2006年8月には、中国・大連で国際二宮尊徳思想学会の第3回学術大会が「報徳思想と経済倫理」を共通テーマに開催された。尊徳の美徳四か条『至誠、勤労、分度、推譲』の実践、『経済を忘れた道徳は寝言である、道徳を忘れた経済は罪悪である』という訓えにふれ、『一圓融合』に「持続可能な発展」を見出す発表があった、というだけでは余りに皮相的であろう。中国の研究者たちのなかには日本人の名前を冠する学会に反発する発表をした人たちもいたが、日本企業の人間的な側面、社会への貢献(推譲)、環境との調和への配慮を、報徳思想を手がかりに探りたい人たちもいた。熱心な研究者には日本企業を訪問して聴取り調査をしてもらうことも有益であるけれど、より多くの研究者たちのために、企業の理念や沿革をホームページで発信したり、理念の変遷や参照された思想についての学術的な問合せには適宜対応したりしていただければ有難い。

 振り返れば、スコットランドの経済学者アダム・スミス(1723-90)は『国富論』(1776)において「われわれが食事をとるのは、肉屋や酒屋やパン屋の博愛心によるのではなくて、彼らの自分たちの利害にたいする関心による」と主張したけれど、グローバル経済における組織ビジネスでは再び博愛心や社会との調和の意識の復活が求められるといえる。社会主義的市場経済の下での(国営)企業の場合でも、中央政府の政策を指針にするだけではなく、地元の社会や環境との調和を主体的に図ってゆく必要があるのではないだろうか。いまや(2006年12月には)北京の研究者たちも中国が環境汚染大国、廃棄物大国になったことを認めている。きめ細やかな規制をかけたり目標を掲げたりするか、あるいは経営リーダーに企業の社会的責任に配慮した道徳的判断と環境経営を促すかが必要であろう――もちろん両方でも構わないのである。(おわり)
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