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2007-01-02 22:12

ポリトコフスカヤ、リトビネンコ連続暗殺事件に思う

伊藤 憲一  グローバル・フォーラム執行世話人
 最近のロシアをめぐって世界中の「多くのひと」が首をひねっている。反体制派ジャーナリストのポリトコフスカヤがモスクワの自宅で暗殺されたのにつづいて、同じく反体制派の元諜報機関員リトビネンコが亡命先の英国で毒殺されたからだ。これまでもプーチン体制を批判するたくさんの人たちが殺されてきたのだが(ジャーナリストだけでも百人以上)、「多くのひと」はそんなことは知らずにきた。犯人が挙がったことがないことも、知らずにきた。プーチンが「証拠がない」と言って、政府の関与を否定すると、「多くのひと」は「そんなものか」と思って、頭から「無罪の推定」をかれに与えてきた。しかし、今回は、ポリトコフスカヤが西側世界で有名なジャーナリストであったこと、リトビネンコが英国籍をもち、英国政府がその捜査に乗り出したことから、いつものように「西部戦線異常なし」では済まなくなっている。

 私自身はと言えば、1993年の拙著『地平線を超えて』で「残念ながらロシアが民主主義国になることはない」と指摘したし、1991年の『二つの衝撃と日本』では「いま世界はロシアが民主化したと浮かれているが、ロシアにはやがて『テルミドールの反動』がやってくるだろう。そのあとにブリュメール軍部独裁、そして非ロシア民族の遠心分離的なナショナリズムの昂揚がつづくだろう」と予言した。「ブリュメール軍部独裁」は「プーチン・シロビキ独裁」という形をとって、実現している。ロシアは、私のいう「力治国家」である。どこの国の政治も権力闘争を避けられないが、行使される権力は国によって異なる。国民がどのような支配なら受け入れるのかという、政治文化の風土が国によって違うからである。

 アメリカ人はそれが自分たちの選んだ政府だから、その政策を受け入れる(「法治国家」)。中国人はそれが毛沢東の言葉だから、平伏する(「人治国家」)。日本人はそれが皆の大勢だから、追随する(「和治国家」)。そしてロシア人はそれが暴力で押し付けられた既成事実だから、観念する(「力治国家」)。いまロシアで起こっていることは、スターリンからイワン雷帝にまで遡る歴史的産物としてのロシアの政治文化の問題なのではないだろうか。ロシアの政治はいつの時代にも、むき出しの暴力が横行し、血の匂いがする。それなしに権力闘争に決着がつけられたことはない。このような国内政治を勝ち抜いてきた権力者は、同じような発想で国際政治を勝ち抜こうとする。そこにロシア外交の本質がある。いろいろなことを考えさせてくれるポリトコフスカヤ、リトビネンコ連続暗殺事件ではあった。
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