国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「議論百出」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2015-01-21 06:28

2億ドルは、テロリストを勢いづけるだけだ

杉浦 正章  政治評論家
 何でこの時期に中東歴訪かと悪い予感がしていたが、胸騒ぎが的中した。首相・安倍晋三に真っ向からテロリストが立ちはだかった。狂気の処刑人によると「日本の首相は欧米による十字軍の戦いに参戦した」というのだ。難民救済のための人道援助2億ドルと同額(240億円)を、2人の日本人人質のために支払えと要求している。国連の分析によるとイスラム国は身代金と石油の密輸で命脈を保っており、身代金は年間で50億円前後だという。それが濡れ手に粟の5倍の額の要求だ。安倍が「人命第一に考える」というのは間違っていないが、問題は240億円を72時間以内に支払うかどうかに絞られる。筆者は「テロリストにはびた一文支払うべきではない」と考える。そこで思い起こすのは1977年の日航機ハイジャック事件で、日本赤軍から福田赳夫が全く同じ脅迫を受けた例だ。身代金600万ドルの支払いと、獄中メンバーの釈放を要求され、福田は超法規的措置として「一人の生命は地球より重い」と述べて、テロリストに屈した。世界の世論は賛否両論が巻き起こったが、総じて米欧のマスコミからは日本政府の弱腰ぶりが批判の対象となった。日本の首相としては多数の人質の命がかかった問題であり、やむを得なかった対応であると思う。

 しかし、今回の場合は状況が全く異なる。世界中がテロリストとの戦いのまっただ中にある。フランスの新聞社襲撃事件から2週間、世界の世論は一致してテロ撲滅の戦いを支持している。イスラム国の処刑人は日本政府と国民を分断しようとしているかのように見える。「日本国民は政府にプレッシャーをかけ、2億ドル払って国民の命を救うように賢明な判断を求めよ」と主張したのだ。一見見事な策略のように見えるが、しょせんはラッパーの淺知恵にすぎない。日本人の根性をを見くびっている。アメリカを相手に4年間戦った国民だ。最後は特攻まで行っている。テロリスト如きに甘く見られる民族ではない。「なめるな」と言いたい。日本国中が卑怯極まりない行為に激怒しているのであり、安倍の「人命を盾にとって脅迫することは許しがたいテロ行為であり、強い憤りを覚える」という発言は全国民が支持しているのだ。

 身代金を公に要求したのは初めてであるが、これはイスラム国の弱体化を如実に証明している。まず資金面だが、イスラム国の財政は身代金と石油の密輸でなり立っている。しかし原油価格の暴落と米軍の爆撃で密輸ルートの資金は減少の一途をたどっており、残るは人質の身代金だ。2人の身代金を240億円とふっかけたのは、こうした資金難を一挙に解決する目的がある。身代金を安倍の支援額に合わせたのは、感情的な側面が強く、根拠は全くない。まさか満額とれると思ってはいないだろうと思われる。一方でアメリカの空爆も繰り返されており、当初は高揚していた外人部隊の志気も落ちる一方だと言われている。

 逆に2億ドルがイスラム国の手に渡ればどうなるかだが、相手はテロリストだ。ますます勢いづき、周辺諸国の人命が何千人と失われる資金源となるのである。難民は増大する一方であろう。日本はイスラム国が活況を呈する資金を提供することになり、テロとの戦いに結束しようとしている国際社会の非難を受けることは目に見えている。いったん日本が弱みを見せれば、次々に人質事件を巻き起こし、日本を資金源化するだろう。官房長官・菅義偉が「テロとの戦いに貢献する我が国の立場に変わりはない」と言明しているのは、当然であり、この方針を堅持すべきだ。フランスやスペインが人質釈放に身代金を支払ったと言われているが、今度の場合はけたが違うのだ。米国はテロリストとは交渉しないことを前提としており、イギリスも歩調を合わせている。それに安倍が提示した援助額2億ドルは、難民や避難民に対する人道支援であり、直接的な軍事援助とは全く異なる。人道支援は主義主張が異なってもイスラム世界全体が潤うものであり、十字軍に参画したというのは全くの筋違いだ。人質の2人が現地にいたというのは、当然自己責任もあるが、人命は尊い。政府としてはできる限りの救出策を試みるべきであることは言うまでもない。ただ身勝手で許しがたい蛮行に屈してはならない。
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『議論百出』から他のe-論壇『百花斉放』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
グローバル・フォーラム