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2015-01-15 06:30

日本のベストミックスは「原発25%」が適切

杉浦 正章  政治評論家
 首相・安倍晋三が逡巡しているからなのかと疑いたくなるくらい原発再稼働が遅れている。しかし、いくら遅れても統一地方選後には川内原発が再稼働へと動くだろう。これを奇貨として日本の原発ゼロのエネルギー暗黒時代は終焉する。先進国で唯一化石燃料を垂れ流しにして地球温暖化に「貢献」してきた日本のエネルギー政策が大転換期を迎える。安倍は好むと好まざるとにかかわらず年末にパリで開催される国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の「第21回締約国会議(COP21)」に向けて、原発再稼働を前提に温室効果ガス削減計画をまとめなければならない。それに先立つ6月のサミットでも削減目標提示を求められる。原発政策はもう待ったなしの段階に入った。

 あの民主党政権といえども首相・野田佳彦の大飯原発再稼働判断だけは立派だった。堂々と再稼働に踏み切り、「国民生活を守るための判断」と言い切ったものだ。ところが安倍はお経のように「安全が確認されたものから再稼働させる」と唱えるだけで、それ以外は我関せずだ。選挙意識の姑息(こそく)さが目立つ。昨年9月に合格証が出された川内原発は新年にも再稼働と予測されたが、さらにのびのびとなって今度は4月以降だという。統一地方選挙を意識しているとしか思えない。九州電力と規制委が認可手続きの書類を4万ページも延々と審査しており、安倍から審査促進の要望が入ることはない。自民党は2回の総選挙、参院選挙は言うに及ばず、都知事選挙まで原発を公約に掲げて勝利しており、躊躇する必要は無いのに、再稼働をびびっているのだ。民主党政権が発足させた規制委は今年9月に発足から丸3年を迎える。委員会設置法の付則では3年以内に必要な見直しを実施する決まりとなっており、この際抜本改革で審査の促進を図るべきだ。このままでは規制委あって国が滅びる。

 もう原発の必要性をイロハのイから説き起こす必要もあるまいが、世界は今原発ブームにわいている。発展途上国にも原発建造の波は押しよせており、中国に至っては運転中が22基。現在建設中がなんと27基で、全部海岸寄りに作られている。日本の安全ノウハウなしで建設が進み、いったん事故が起きれば偏西風に乗って放射能の嵐が日本に降り注ぐ仕組みとなっている。先進国でもフランスから原発電力を買えるドイツの首相・メルケルだけが、原発を否定しているが、まだ国内でも稼働している。太陽光エネルギーなどの「活用」で国民は電気料金の値上げに苦しんでおり、政策転換は時間の問題とみられている。

 こうした中で先進国で日本だけが恥ずかしげもなく化石燃料をばんばんたいて、国民は電気料金の高騰にあえいでいる。おりから先進諸国はCOP21に向けて、温室ガスの削減計画を次々に提示し、米中両国は昨年11月の首脳会談で野心的な削減案を確認しあった。中国は数字を示さなかったが、原発をさらに27基も建設すれば大きく温暖化防止に貢献できる案を提示できるだろう。日本だけが遅れているが、その原因はエネルギー全体に占める原子力の割合が定まらないからだ。いわゆるベストミックスが策定できないのである。このままでは安倍はCOP21に先立つサミットでも提示できなくて赤恥を晒すことになる。サミット自体は当然世界をリードする立場からCOP21に向けての立場を表明することになる。

 政府は、原発再稼働を前提に温室効果ガス削減案を作成しなければならないが、再稼働だけでは不十分である。新増設や建て替えも含めた新計画を樹立しなければ、世界に向けて確たる約束をすることは難しい。安倍は好むと好まざるとにかかわらず今年前半は原発での決断を迫られる年になるのだ。そこで原発の割合はどの程度にすべきかだが、フクシマ以前は30%だったが、新増設なしではぎりぎり25%がいいところではないかと見る。欧州諸国のエネルギー構成比率は総じて石炭、天然ガス、原発、再生可能エネルギーがそれぞれ25%ずつであり、日本でもこの程度が実現可能の範囲ではないかと思われる。

 ただ、温暖化防止は究極に人類存続がかかった問題であり、再生可能エネルギ-など海の物とも山の物ともつかぬものに、まだ頼ることが出来ないことは確かだ。そこで重要なのは新増設と建て替えだ。日本の原発技術は世界最先端を走っており、最近注目されているのが日本原子力開発機構の「高温ガス研究炉」だ。水を必要としない高温ガス炉で炉心溶融事故が発生しない。砂漠でも稼働可能であり、中東諸国が強い関心を寄せている。規制委が現行原子炉で許可を出す以上、より危険性の少ない新設炉にノーという根拠はない。電力4社が老朽原発5基を廃炉にする方針を近く打ち出すが、これらの原子炉は建て替えで新設へと動くべきであろう。

 スリーマイル島事故で原発新設を行わなかった米国では、原発関係の人材が少なくなり、原子炉のメンテナンスを日本に頼っている。日米は同盟国だからまだよいが、日本で原発が先細りとなれば人材はなくなり、中国にメンテナンスを頼るのかということになる。これは国家のエネルギー戦略と密接にかかわる問題であり、安倍は躊躇の殻に閉じこもっているときではない。
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