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2014-12-09 06:52

総選挙結果で「新55年体制」も視野に

杉浦 正章  政治評論家
 生活の党代表・小沢一郎本人が危うい選挙情勢だ。自民党は官房長官・菅義偉に続いて首相・安倍晋三も岩手4区に入り、攻勢をかける。必死の防戦の中で小沢の唱える「選挙後は新55年体制に陥る」という見方が説得力を持って語られ始めている。55年体制とは保守合同から38年間続いた自民党と社会党対決の構図だが、総選挙結果を展望すると確かにそう言えなくもない。55年体制では東西冷戦と高度経済成長への期待を基礎に自民党長期政権が維持されたが、ソ連に取って代わった中国の進出による極東冷戦の構図と、アベノミクスへの期待感は、社会党の殻を引きずる民主党への不信感と直結して、新たな自民党長期政権の構図を生みつつあるようだ。ただし、中選挙区と違って小選挙区制は「風」が左右する側面があり、油断すれば一挙に奈落の底に落ちることになる。小沢は55年体制を崩壊させた立役者だから、一層身にしみて感じているのだろう。「このままなら自民党の与党時代が続く新55年体制になり、国民は日本が沈没するまで嫌々自民党政権を選ぶことになる」と毒づいている。民主党を中心に第3極を集合させる新党構想が、民主党から相手にされず、破れかぶれなのは無理もない。

しかし、国民は見抜いている。小沢が作っては壊した政権が、再び登場しては、それこそ「日本が沈没する」と見ているのだ。だから小沢が狙った新党によるブームは絶対に起きない構図になっていたのだ。これを理解できないのは、過去の栄華にすがる老人のさがであろうか。ただ「新55年体制」そのものは説得力がある。55年体制は1955年に右派社会党と左派社会党が一本化して日本社会党になり、これが保守系政界と財界の危機感を呼んで、日本民主党と自由党が一本化して自由民主党になったのだ。以後自民党は安保改定を軸に対米協調路線で高度経済成長を果たし、社会党は社会主義イデオロギーに根ざした反対勢力の立場を維持した。その勢力比は55年体制発足後の最初の58年の総選挙で自民党が287議席、社会党が166議席を獲得して全体のなんと97%を占め、以後議席数はほぼ2対1の比率が維持され続けた。有権者はこの間改憲に必要な3分の2の議席を自民党に与えなかったが、社会党への政権交代は拒絶し続けた。絶妙のバランスを維持したことになる。55年体制発足以来13回の選挙結果を平均すると、自民党271議席、社会党118議席である。宮沢政権時代1993年の総選挙における新党ブームで自民党が結党以来最低の233議席と惨敗、非自民の細川護煕政権が樹立されて55年体制は崩壊した。

 今回の選挙予測も、新聞の予測は序盤から変化はなく、毎日に到っては終盤も自民単独で3分の2の317議席を取りかねない勢いであるという。マイナスに響く「アナウンスメント効果」どころか、「勝ち馬に乗る」傾向が出ているのである。少なくとも自民・公明で3分の2獲得の方向は確定的となっているようだ。民主党は70か多くて80議席。第3極は失速して全く不振で、維新は40議席を割るどころか30議席割れもあり得る状態だ。一強体制がさらに加速され、野党は民主党のみが辛うじて中規模政党として残るという構図だ。自公与党対民主党の割合はほぼ5対1か4対1という構図になる。これが意味するものは、新55年体制は55年体制の2対1どころか与党が圧倒的な数を占める体制であり、よほどの疑獄事件や不祥事が発生しない限り、逆転する可能性は当分ない。つまり55年体制より新55年体制は与党が数の上では2倍以上強化された体制となる。中選挙区制が小選挙区比例代表並立制に変わって以来、政権交代は「風」が作用している。民主党政権が出来たのは「反自民の風」であり、自民党が奪回したのも「反民主の風」である。いずれも大失政が原因だ。したがって小選挙区制下における自民党政権は中選挙区時代ほど安定したものではない。小選挙区制での選挙における自民党議席を見ると、96年の41回239議席、42回233議席、43回237議席、44回296議席、45回119議席、46回294議席、今回の47回は300議席前後の見通しとなっており、3勝4敗で、それも大きくぶれる。落差が激しいのだ。これは油断した途端に政権がひっくり返りかねないことを意味するが、安倍にとってのプラス要因としては外交・安保とデフレ脱却への動きがある。

 新聞は悔しいとみえて、あえて書かないが、外交・安保の成功が投票行動に大きな影響をもたらしているのだ。外交・安保では安倍は歴代首相に抜きん出る功績を成し遂げている。とりわけ領土的野望むき出しの中国に対して、日米安保とアジア各国との包囲網を軸に対峙する姿勢は、米ソ冷戦時代を上回る安全保障上の必然性を帯びており、安倍の目指す路線に狂いはない。当分極東での冷戦の構図は強弱はあっても変化はしまい。対韓問題では歴史認識で大幅な譲歩を重ねた宮沢政権が国民の不信を買って、55年体制を崩壊させる一因となった。安倍は対韓外交で安易な譲歩を避け、これが国民的人気の源泉になっている。加えてアベノミクスが、職場と賃上げにほのかな希望をもたらしたのは確かであり、「この道しかない」という訴えが、野党の主張を霞ませている。逆に民主党政権のポピュリズムが、国民に不信の構図を根付かせて容易に解消する流れとなっていない。こうして自民党ひとり勝ちの構図が出来上がりつつあり、新55年体制の長期政権が見通せるようになってきたのだ。
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