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2014-12-03 07:00

自民党のテレビ偏向への要望は当然だ

杉浦 正章  政治評論家
 選挙の戦いとは別に、選挙報道の中立性を巡って安倍政権とテレビ局との間ですさまじい裏バトル・暗闘が展開されている。一部民放やNHKの番組の「偏(かたよ)り」については、かねてから筆者も指摘してきたところであるが、自民党が堪忍袋の緒が切れたとばかりに四項目にわたる「お願い」の文書を民放キー局5社とNHKに送った。朝日は社説でこれを取り上げ批判しているが、要望をよく読んでみれば、至極当たり前のことで、とても言論弾圧などと呼べるものではない。普段のテレビによる「政権弾圧」の方がよほど問題がある。この際、テレビの偏向報道についても選挙の争点にしてはどうか。公平中立の要望書は自民党筆頭副幹事長・萩生田光一、報道局長・福井照の名前で出された。その内容は(1)出演者の発言回数や時間に公平を期していただきたい、(2)ゲスト出演者の選定についても中立公平を期していただきたい、(3)テーマについても特定の出演者への意見が集中しないよう、中立公正を期していただきたい、(4)街角インタビューや資料映像等で一方的な意見に偏る、あるいは特定の政治的立場が強調されることがないよう、公平中立、公正を期していただきたい、というもの。また要望書では「過去にはあるテレビ局が政権交代実現を画策して偏向報道を行い、大きな社会問題になった事例も現実にあった」とテレビ朝日の「椿事件」とみられる事例を挙げている。

 直感的に安倍の指示かと思ったが、安倍は党首討論で聞かれ「いちいちそんな指示はしない。党としてそういう考え方でやったのだろう」と述べたが、過去のケースを見れば安倍の関与は一目瞭然。安倍は幹事長時代の衆院選挙を控えた2003年11月にテレビ朝日が、「民主党の菅直人の政権構想を過度に好意的に報道した」として抗議。2004年7月の参院選の際の選挙報道に対してもテレビ朝日に文書で抗議している。2度やることは3度やるのであろう。しかし安倍の主張は全く妥当である。公平に見て日本のテレビ局の場合、放送法で定められている報道の中立性などどこ吹く風の報道ばかりである。申し入れの4項目も、これによって報道の自由が規制され、日本が全体主義になる気配などみじんも感じられない。「公平に報道してくれ」と頼み込んでいるだけだ。4番目の「街角インタビュー」について言えば、あらゆるテレビの報道のうちでこれほど客観性、公平性に欠ける報道はない。放送局の思うがままに発言を選択するからだ。一番ひどいと思ったのは特定秘密保護法案が衆院を通過した昨年11月26日午後7時のNHKのニュースだ。街の声は全てが反対論で統一されていた。これが公共放送の報道かと思った。

 それでは自民党と犬猿の仲にあるテレビ朝日が要望をどう受け止めたかだが、まさにぬかに釘であった。選挙公示の2日夜の報道ステーションでは「街の声」が大いに偏っていた。7人聞いたうち、1人はほぼ中立、2人は「投票しない」、後の4人は「年金カットが心配」「世の中きな臭い」「仮設住宅は限度超える」「就職が不安」で皆批判的。政権を肯定する声は1人もいなかった。さすがにメインキャスターの古舘伊知郎は「私も言うことがいっぱいあるんですが、ここまで出てくるんですが、この時期だと叱られちゃうんですよ」とぼやくにとどまって、朝日新聞論説委員・恵村順一郎にふった。惠村は「ぴったりくる政党がない方が多いだろうが、例えば重要政策だと思う政策で2つの政党を選んで一つは小選挙区で入れ、もう一つは比例区に入れることがあっていい」との投票方法を勧めた。まさかステーションが自民と公明の2党に入れよと言うわけがないから、野党への投票の勧めであろう。自民党の要望などいくらでも抜け道があって、海千山千のテレビ様にはかなわない証拠だ。

 朝日の社説は先に挙げた自民党要望書の「偏向報道」の部分について「当時の郵政省も放送法違反はないと認めた。文書がこの件を指しているとすれば、偏向報道は誤りだ」と噛みついている。しかしテレビ朝日報道局長の椿貞良は「なんでもよいから反自民の連立政権を成立させる手助けになるような報道をしようではないか」と他局に偏向報道を働きかけたのである。郵政省は「厳重注意する」旨の行政指導を行うとともに、1998年のテレビ朝日への再免許の際に、政治的公平性に細心の注意を払うよう条件を付した。偏向報道には至らなくても「偏向報道の勧めと扇動」は明かであり、社説で弁護する価値はない。椿が具体的に社内に指示し、その通りの報道をしていれば、確実に放送法違反として電波法第76条に基づく無線局運用停止がありえたであろう。つまりテレ朝は放送免許停止でなくなっていた。その後もテレ朝は“改心”どころではなかった。2009年にはコメンテーター・吉永みち子が「鳩山首相が審議そっちのけで衆議院本会議中に扇子に揮毫(きごう)する一幕があった」というニュースに関連して、「こういう大変な時にね、一生懸命、我々も支持率を下げないでね、辛抱して支えてるのに、何なんだよと。そういうことになってしまうんで。ささいなことのようだけど、重なるとボディーブローのように利いてくる」と発言している。「我々も鳩山政権を支えている」とは偏向もいいところで、明らかなる放送法違反だ。普段のテレ朝内部の空気が馬脚を現したものに他ならない。自民党は言われっぱなしで泣き寝入りする必要は無い。日本を支える政党としての矜持をもって、テレビ報道の偏向にチャレンジすべきである。
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