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2014-11-13 07:01

名付ければ「あざとい解散」に他ならない

杉浦 正章  政治評論家
 広辞苑によると「あざとい」とは、やり方があくどいときや思慮が浅いときに使われる。安倍の解散に、このあざといを使った大手紙はまず毎日が社説で「早期解散論 その発想はあざとい」と見出しを取り、「増税に慎重な世論に乗じて選挙にまで利用しようという発想が感じられる。民意を問う大義たり得るか」「今の議論には疑問を抱かざるを得ない。増税先送りを奇貨として、世論の追い風をあてこんだ解散論とすれば、あざとさすら感じる」と主張した。見事な形容である。これに影響を受けたのであろう朝日は天声人語で「政治家でない者が『あの人は政治家だ』と評されるとき、それは大抵ほめ言葉ではない。あざとく立ち回る。『やっぱり政治家』と言いたくもなる不可解な解散風である」と類想的に安倍を切った。まさに安倍の打つであろう解散は、大義を形成する理論武装がなっていない。命名するとすれば、自己都合の「あざとさ」が目立つ「あざとい解散」であろう。

 大手紙で唯一もろ手を挙げて歓迎しているのが読売だ。社説で「安倍首相が衆院解散・総選挙を検討している。国民の信任を改めて得ることで、重要政策を遂行するための推進力を手に入れようとする狙いは、十分に理解できる」と大歓迎だ。無理もない。この解散風は11月9日付の読売が「増税先送りなら解散」と報じたのが発端だ。社説も自画自賛せざるを得ないのだろうが、テレ朝の報道ステーションでキャスター・古舘伊知郎が「一新聞社と今の政権はコラボがあるんですか」とこき下ろしている。ナベツネが見ていたら告訴するかも知れない発言だが、最近はお疲れで早寝のようで、聞いてはいまい。コラボは別として、大手マスコミにおける読売の解散支持の論調は特異であり、総じて新聞テレビは批判的である。解散・総選挙は必然的にこの批判のトーンを引きずる宿命を抱いたものとなる。なぜかと言えば、この局面は解散で転換を図るべき性格のものではないからだ。消費増税延期に伴う解散について首相側近らの論理構成は、「先延ばしにすることが3党合意に反することになり、その是非を問うことが解散の大義」ということだ。しかし、これは合意の重要なポイントを無視している。合意にもとずく消費税法はその付則18条で、首相に景気悪化の場合の増税延期の権限を認めている。その景気条項に基づく延期なのであり、改めて国民の信を問うべきテーマとはならない。

 また首相側近らは解散の戦略的な意図として、首相・安倍晋三が尊敬する叔父である佐藤栄作を見習っていると強調する。佐藤が1966年12月の「黒い霧解散」に打って出て、7年あまりにわたる長期政権の礎を作ったことを安倍が意識しているというのだ。筆者は官邸詰め記者で、つぶさに見たが、66年は国有地の払い下げなどをめぐる不祥事や防衛長官・神林山栄吉の自衛隊機でのお国入り、運輸大臣・荒舩清十郎による深谷駅急行停車問題などがあった。確かに安倍の改造後の状況と似ていなくもない。佐藤は解散して1議席だけ減らし277議席を獲得したが、「黒い霧解散」とはマスコミが名付けたものであり、局面打開を図ったものでもない。池田勇人が63年に解散して以来3年あまりが経過しており、通常国会審議に影響を及ぼさないため12月解散に踏み切ったのだ。たった2年で解散する安倍とは異なる。長期政権となった理由は、経済が昭和元禄を謳歌(おうか)する高度成長のまっただ中であり、国民は自民党政権以外の選択はあり得ないというムードであった。中選挙区であったことも政権交代を困難にした。加えて、佐藤のライバルであった大野伴睦や河野一郎が相次いで死去した結果、党内抗争が起こらない状況となっていた。さらに69年の沖縄返還選挙で288議席を獲得、選挙後の入党者も含めて300議席を確保したことが決定的に作用して、72年まで続いたのだ。

 そのまねをして解散してどうなるかだが、選挙戦は厳しいものがあろう。第一に大義名分がない。消費増税延期は解散の大義とはならない。それを無理矢理延期を大義と位置づけ、来年は原発再稼働や集団的自衛権法制があるから、その前に解散してしまうという姑息(こそく)な思惑と合わせれば、冒頭に指摘した「あざとさ」が露呈するばかりである。300議席近い数を取った後の選挙は、まず大きく議席を減らす。安倍は解散する以上、294議席を減らしても少なくとも269議席の安定多数を確保しなければならないが、「あざとい解散」のムードが壁になるのは間違いあるまい。安倍は外遊前の7日に公明党代表・山口那津男と午後6時31分から22分間会談した。この場で、解散の意向を伝えた可能性が強い。公明党にしてみれば統一地方選挙とのダブルや、集団的自衛権解散、衆参ダブル選挙を避けるのが戦略の基本であり、願ってもないことで、唯々諾々と承ったのであろう。これが安倍の決意を最終的に固めさせた原因と見られるが、ひたすら選挙マシーンに徹する公明党は「お主もワルよのう」である。本来ならストップをかけるべきところを、自分の選挙のためには背中を押す政党なのだ。
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